1.リオさんの半生
リオさんは小さいころから活発な子供だった。
外で体を動かすのもの好きだったが、テレビゲームもよくしていたという。
初めてドラクエと触れ合ったのは小学生の頃、最初にプレイしたドラクエは3だった。
リオさんの居たクラスでは女子の間でドラクエが流行っていたそうで、ドラクエの3~5を同級生たちと楽しんでいたそうだ。
このあたりが後にドラクエ10をプレイし始めるきっかけにもなる。
「ドラクエをやっていて、親に怒られるようなことは全然ありませんでした。
むしろ父もゲームが好きでしたね。弟もいたので家族3人がドラクエやってましたよ。
あの頃のドラクエってセーブデータが3つじゃないですか、だから私、父、弟で1つずつデータを作って1時間交代でドラクエしていました。楽しかったですね。」
楽しそうな家庭の様子がうかがえるエピソードだが、しばらくするとリオさんの興味は別のものへ移っていった。バスケットボールである。
「背が高くて運動も好きなので、バスケにのめり込んでいきました。中学から始めて、高校・大学までバスケ一筋でしたね。その間は全然ゲームもしませんでした。だから私の中でドラクエは5でしばらく止まっていたんです。」
高校時代、女子バスケ部の主将になったリオさんはチームをまとめあげ、創部以来初の関東大会進出を果たす快挙を成し遂げた。
さきほど書きもらしてしまったが、リオさんは小学校時代全ての学年で学級委員を務めたというから、昔から並はずれたリーダーシップを持っていたのだろう。
「大学卒業してからアパレルで働きました。
おしゃれなお店に5年ほど勤務をしたんですが、いつまでも働ける業界ではありませんでしたのでお店をやめて次の仕事を探すことにしたんです。
女性だと一部の人を除いて20代でお店を辞めることが多い業界なんですよ。」
たしかに流行りのお店には若い女性店員さんが多い。
しかし彼女たちは、マネージャーなどになる一部の人を除いて20代のうちに辞めてしまうのだという。
女性の人気就職先であるアパレル業界は華やかに見える、しかしそこで輝ける期間は思ったよりも短い。
「仕事を辞めてからは当然次の職を探すことにしました。
気分転換も兼ねて時間の都合がつきやすいアルバイトしながら探そうとしたんです。
それで、せっかくの機会だからと思って、珍しそうな短期アルバイトを選んですることにしました。」
どんなバイトをしたのか聞いてみると、美容院のヘアカットモデルのアルバイト、結婚式の代理出席のアルバイト、発掘作業のアルバイトをしたという。たしかに変わったアルバイトが多い。
「何度か行った結婚式の代理出席のアルバイトはすごくおいしかったです。式を華やかにする目的で出席者を増やしたいという人って多いんですよ。早い話がサクラですね。
料理もいいものが食べられるし、お祝い事だからという理由でバイト代も良かったです。
4時間くらいの拘束で1万5千円~2万円でした。」
そして話はご主人との出会いに移っていく。
「私がしたアルバイトの中にイベント系のものがありまして、そこで今の主人と知り合いました。
アルバイト期間が終わった後に彼から連絡がありまして、お付き合いをすることになりました。」
それから同棲期間を経て、彼との交際は順調にすすみ無事にゴールイン。
今では都内の新築の家で2人で暮らしていて、リオさんは専業主婦をされている。
私はここまで聞いて、思わず「うへえ」と漏らしてしまった。
羨望とも嫉妬ともつかないような微妙な気持ちがまじりあった「うへえ」である。
何ともまっとうな半生だ。
今風に言えばスクールカーストの頂点に居続け、
部活でもチームをまとめて学校初の快挙を達成。
卒業後は人気の高いアパレル会社の正社員になり、
素敵なご主人と出会って都内に新築した一戸建てでの専業主婦。
ぐうの音も出ないほどのリア充といえるだろう。
底辺の私から発せられる嫉妬など届くはずもないほど、リオさんは人がうらやむような生き方をしている。
だが私がリオさんの話を聞くためにここにいるのは、ドラクエ10廃人の取材をするためだ。
なぜここまで恵まれた暮らしをするリオさんがドラクエ10をしたのか?
なぜ一万時間という到底超えるのが困難な壁を超てしまったのか?
私はのどに詰まりかけたポルペッティーナと嫉妬をアイスティーで流し込むと、ドラクエの質問へと軸足を移した。