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9.離婚危機 下

「離婚届の実物を初めて見ました。

緑色で枠線が書かれた用紙で、『ああこれがそうなのか』という感想でした。

主人は休日なのに役所まで貰いに行ってたみたいです。

家に帰るとテーブルの上に緑紙が置かれていて、椅子には主人が腰かけていました。」


ご主人は目をつぶって腕組をしていた。

リオさんが部屋に入るとご主人はゆっくり目をあけ、彼女のほうに視線をやると、

「書いてくれ」

そう静かに言った。


リオさんは書いた。


『書いたのですか!?』

あまりにもあっさりリオさんが離婚届に記入したというので、

話の途中だったが、私はつい間抜けな声を出してしまった。

こういうものは死ぬほど思い悩むものではないだろうか。

前々から準備していたものならいざ知らず、初めて離婚届を見て数分で書いたのだから。


「たしかに最初はちょっと驚きましたけど、

なんとなく感付いてた部分もあったんです。

『ああ、この人本当に離婚する気はないな』って。

だから書きました。」

リオさんには自信があった。

この離婚届を持ってきたのはただのブラフだろうと。


結論からいうと、リオさんの予想は的中した。


リオさんが離婚届を書き始めるとご主人の顔色はハッキリを変わり、動揺を隠せない様子がありありと感じ取れた。

それを横目にリオさんはリビングの引き出しから印鑑を取り出し捺印欄に判を押すと、ご主人は無言で立ち上がり自室へと歩き出した。


「私もちょっと興奮してましたので、判を押した離婚届を持って追いかけましたよ。」

リオさんは緑紙を片手に自室に入ろうとしたご主人を捕まえて詰め寄った。

『ほら、書いたわよ!』

そう啖呵を切った。

『……』

ご主人は何も答えず、おろおろした様子でリオさんの顔と離婚届を交互に見るばかりだった。

『あなたも書きなさいよ!書くんでしょ?』

リオさんの語気はさらに荒いものになった。

『……』

『はやく書きなさいよ!ねえったら!』


『俺は……書けない……』

絞り出すような声でご主人は白旗を上げた。

こうして、ドラクエが発端となった離婚騒動は終わった。


私はリオさんの行動に舌を巻いた。

それにしてもすごい自信である。

ドラクエにハマっていたとしても、しっかりとご主人の胃袋と心をつかんでいるという気持ちがあったのだろう。

だが、もしご主人が売り言葉に買い言葉で離婚届に判をついたらどうしたのだろうか。

私は意地悪な質問をしてみた。


「もしあの時離婚していたらですか?

結構困っていたと思いますよ(笑)

専業主婦ですからすぐに仕事を探さなくちゃいけませんし、そのために実家へ戻らなくちゃいけないし。

あの騒動が終わった後に考えてみましたけど、離婚しなくてよかったと改めて思いました。」

『ドラクエの時間も減っちゃいますもんね。』と私がちゃちゃを入れると、リオさんは優しく笑った。


この離婚騒動は全く無駄だったというわけではなく、この日からリオさんのプレイ時間は減り、金曜とアプデ前後以外は夕方以降ドラクエすることはなくなった。

ご主人に言われたわけではなく、リオさんが自主的にドラクエの時間を減らしたのだ。

もちろん目的は夫婦の会話時間を増やし、ご主人との約束を聞き逃さないようにするためである。


「今でもプレイ時間は普通の人より多いと思いますが、

夕方からドラクエをしないことで主人との会話時間は増えました。

離婚届まで用意されたのはたしかに家庭崩壊の危機でしたが、あの騒動があったことで良くなった部分のほうが多いですね。

あれからは一切夫婦間での喧嘩はありません。」

雨降って地固まるとはこのことだろうか。

今でもリオさんは家庭とドラクエライフの両立を続けている。


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