1話
「いち、に~の、ちょび~っ!」
ボソッ!
「ゴゲッゴー!」
ズドドドドドドド――ッ!
「わ~っ!」
ぼくはチョビ。
ただいま『ドゥードゥー鳥』に追いかけられておりまする!
なんでかって?
だってぼくが、巨大なドゥードゥー鳥のしっぽを1本抜いたから!
なんでかって?
それは――。
「わ~っ! お師匠さま! たすけて~っ!」
「チョビ? えっ? うしろから来るのは、ドゥードゥー鳥? わーっ! おまえ! なんだって、そんなもんを連れて来るんだあ!」
ぼくはすばやく、背の高いお師匠さまのうしろに隠れた。
ハヒハヒ、寄らば大樹の陰ってね?
ちがうか?
「お師匠さま! 危機一髪!」
「おまえがいうなよ……こうなったら呪文で……ラミパスラミパス、ルルルルルー! ドゥードゥー鳥になあれ~!」
「ワーッ! ふるっー! じゃなくて、お師匠さま! ぼくがドゥードゥー鳥になっちゃったじゃないですか! それもぼくサイズのミニチュア! どうするんでしゅかー!」
「しかも若干、赤ちゃんことば……ワーッ! ホンモノが来た! デカッ! これでもくらえ!」
「ギャーッ! ぼくを投げて、どうするんですかー!」
「どうにかなるだろう……」
たしかに、どうにかなった。
なんとドゥードゥー鳥が、ぼくをわが子と勘違いして、巣にお持ち帰りしてくれたのだ。
めでたし、めでたし――。
「じゃないだろ! どうすんだよ! これっ! 帰れないじゃないか! お師匠さま~!」
そのころ師匠は――。
「やれやれ、やっとドゥードゥー鳥のしっぽが手に入った。これで王宮から注文のきていた薬草が作れるぞ。チョビのヤツ、ドゥードゥー鳥のしっぽを取って来てくれって言ったら、本体まで連れてくるから、ビックリするじゃないか! それにしてもチョビ……どこまで行ったのかな?」
「師匠の助けなんか待ってたら、ぼくは大人になってしまう。そして師匠と感動の再会を……の前にドゥードゥー鳥に食われるな……たしかこの鳥は肉食だった。師匠のかけたマルマル子ちゃん魔法はもって半日。自力でこの巣を抜け出さないと、ぼくは巨大な化け物鳥のえじきになってしまうぞ! しかし……どうしたものか……」
説明しよう。
ドゥードゥー鳥とは3mはあろうかという巨大な鳥で、概観はにわとりに似ている。
巨大なトサカに黄色いクチバシ。
からだは白いがしっぽは孔雀のように七色に輝く美しさ。
古代から万病に効く妙薬として珍重されているのだ。
見た目のかわいらしさとちがい、ドゥードゥー鳥はものすごく獰猛なのだ!
巣は、高い木のてっぺんにあった。
木っていっても、みんなが想像しているような、生い茂ったあれじゃないよ?
葉なんて何にもない!
ただ、木の棒が1本、突っ立ってるだけ!
それも、高さが尋常じゃない!
ドバイのビルぐらい、あるんじゃないかな~。
えっ?
なんでそんなで、その木は立っていられるかって?
それはここが、魔法の世界だからさ!
ぼくは魔法使いの弟子のチョビ。
ちっちゃな体に大きなブルーの瞳。
金髪頭に頭巾をかぶり、いつも緑色の大きめなローブを身にまとっている。
「ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴゲッゴー!」
バサッ、バサッ、バサバサバサッ――!
うわっ!
ドゥードゥー鳥だ!
なんか、くわえてる!
人だ!
「わーっ! 降ろして! 降ろして! うぎゃ~! 降ろした……ワーッ! ここって巣じゃん! しかも! 高っ!」
ドゥードゥー鳥はただいまドゥードゥー鳥に変身中のぼくに頬ずりをすると、人間だけ降ろしてどこかへ飛んでいった。
えさをくれたって、ことかな?
「ワーッ! 化け物だ! たすけてーっ!」
「ちょっと、ちょっと! ぼくのどこが……ああ、そうか! まだドゥードゥー鳥のままだった!」
そのとき、ぼくの体が鳥から人間へと変化しはじめた。
「あれれれっ? あんた、どうなってんの? 人間の……こども?」
「ああ~っよかった! もとの姿にもどった! ってことは、師匠と別れて半日は経ってるんだな? やれやれ……」
「あの~? 君は?」
「はい。ぼくは魔法使いの弟子のチョビ。今日はドゥードゥー鳥に捕まっちゃいました! てへっ?」
「てへっじゃないよ! 魔法使いなら、ここからの脱出方法、知ってるでしょ?」
「の弟子だってば! それにしても、ずいぶんと横柄な男だな? んっ? なんかすごくいい身なりをしてる? あんたもしかして……どっかの王子さま?」
「だったら? 身代金でも要求するつもり?」
「やなヤツ~!」
目の前の男は、歳のころは16ぐらい。
金髪碧眼でホッソリとした上品なヤツだった。
「ねえ! はやく城に帰してよ? 空、飛べないの?」
「飛べたらとっくに飛んでますよ! ぼくは魔法使いの弟子なんです! 本格的な魔法は、まだ使えません!」
「じゃあ……ナガ~イなわ梯子とか出せない? ぼくだけそれで脱出するから!」
「ホント! やなヤツ! 待てよ……この巣の枝を魔法でつなぎ合わせれば……じゅげむじゅげむごこうがなんとか……ちょびっ!」
「その、最後のちょびっ! ってなんだよ? つけなきゃダメなの?」
「ちょっと! お静かに! 今、魔法でナガ~イロープを作っておりますから! ちょびっ! ちょびびびっ! そら、できたっ!」
「わーっ! すげ~っ! やれば出来るじゃんか! ちび!」
「チョビ……。さあ! ロープの先端を巣にくくりつけて下に垂らしましたよ! ドゥードゥー鳥が帰ってくる前に、地上へ降りましょう!」
「おうっ! あれっ? おまえが巣の枝を取り払ったから、下から鍵が出てきたぞ? 黄金色をしている。ほうびにおまえに取らせよう。遠慮すんな」
「ほうびって……あんたのもんじゃないじゃん! でも、金目のモノは師匠が喜ぶからもらっておきましょう。ネックレスのチェーンに通しておこう。ちなみにこのネックレスは、捨て子だったぼくのそばに落ちていたモノなんです。星型のペンダントトップが付いているでしょう? ぼくの母上が大きくなったぼくに会ってもわかるようにって、置いて行ってくれたんだと思うんです。たぶんぼくって、どこかの国の王子さまなのではないでしょうか……って、ああっ! あいつ! もう、あんなに下まで降りてる! まって~っ!」
ぼくたちはロープをつたい、下へ下へと降りていった。
だが、行けども行けどもたどりつかない!
当たり前だ。
ドバイのホテルの高さなんだから!
「ハアハア……日が暮れそうだ……まずいでございまする!」
「なにがまずいんだ? おれは暗くなっても恐くないぞ? おまえみたいなチビとはちがうからな!」
「そうじゃなくて! ドゥードゥー鳥が巣に帰ってくるんですよ! ねぐらに戻ってくる時間帯なんです!」
バサッ、バサッ、バサバサバサッ――!
「ああ、あれか?」
「ええ、そうそう……ってギャーッ! ホントにもどってきた!」
「ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴゲッゴー!」
「たすけて~っ!」
「チビ! さっきの鍵は? なにかの役に立つんじゃないか?」
「鍵? 黄金の? これですか?」
ぼくはネックレスの先端についている黄金の鍵を、ドゥードゥー鳥に差し向けた!
ドゥードゥー鳥の目が、一瞬ギラリと光った!
「ゴゲーッ! ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ!」
「んっ? 反応があったな? いけるんじゃないか?」
「バカか! 鍵を盗んだから怒ってるんだちょびっ! 反対に刺激しちゃったぞー! ちょびっ!」
「ちょびちょびうるさい! ワーッ! きた~っ!」
ヒュウウウウ――ッ!
ドゥードゥー鳥がぼくたち目がけて、一直線に飛んできた!
「ワーアアアアアッ!」
「ギャーアアアアッ!」
ビュン――ッ!
ビュビュン――ッ!
ぼくたちは、一生懸命によけた。
「ゴゲーッ! ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ!」
ビュッ!
ビュッビュッビュッビュッ――ッ!
さらなるドゥードゥー鳥の攻撃!
「ギャーッ! 手が……もうダメ~!」
「お師匠さま~! たちけてくれ~!」
ドゥードゥー鳥から、最後の一撃が加えられた!
「ワーッ! たすけて~!」
「チョビッ! もう1度ドゥードゥー鳥になりた~い!」
すると――。
チョビのカラダがドゥードゥー鳥になっていた!
「うっわー! どうなってんだ、ちょびー!」
「やった! 助かった! すぐに飛び立て!」
「わかった! ちょびー!」
ドゥードゥー鳥になったチョビは、すぐに大空へと羽ばたいていった。
唖然とする本当のドゥードゥー鳥は、あっというまにはるか彼方へと遠ざかっていったのだった。
チョビたちはとりあえず、お城のそばの泉のほとりへ不時着した。
「よかった、ちょび。ここまでくれば、ひとあんしんだ、ちょび」
「よかったな、ちょび。おっとおまえのへんな口癖がうつったぜ、ちょび。いかん、いかん」
「よかったでござるな、王子さま。ぼくはこれで……」
「おい! まてまて! そんな姿で帰ったらたいへんだぞ! 途中で兵士に矢で射抜かれるぞ? いいから、このまま城の中庭まで飛べ! おれが保護してやる」
「保護してやるって……大丈夫ですか? 王子さまもろとも、一緒に矢で射殺されちゃたまらんのですが……でも、このまま帰るのも道中不安だな。じゃあ、おねがいします……」
「よかろう……礼などいらぬ。ラクにしろ」
「礼って……こっちがして欲しいんだけど……助けられたのに、えらそうだな……」
「おうじさま~! おうじさま~ってば!」
「おい! 王子! 呼んでるぞ、ちょび?」
「ほんとだ! お~い! セバスチャン! お~い!」
向こうの方から、王子探索隊らしき隊列がやってきた。
「あっ! 王子さま! そして……おのれ、妖怪! ダアアアアーッ!」
「うわわわわわ! ぼくは妖怪ではないのだちょびー!」
「やめろ! セバスチャン! これは、おれを助けてくれた魔法使いの……」
「魔法使いの?」
「……弟子のチョビだ! ドゥードゥー鳥には変身しているだけだ! なあ?」
「そうだ、ちょび。はやく人間になりた~い! アアアアッ!」
なんと、チョビのからだが見る間に元のおこさまサイズに様変わりした。
めでたし、めでたし、ちょび。
「よかったー! 人間にもどれたー! ちょびっ!」
「よかったな、チョビスケ! な? わかったか、セバスチャン?」
「わかりもうした。そなたがチョビスケ。王子を助けてくださってどうもありがとうございました」
「チョビスケではござらん! チョビでござる! いえいえ、どういたしまして。魔法使いの弟子として当然のことをしたまで。お礼におもちゃとお菓子をたんまり寄こしてもかわわないですよ、ちょび!」
「これはこれは……ガキんちょのくせに、なんとがめつい。将来が思いやられますな。それにしても王子! もう、このような危険なことは、おやめくだされ!」
「わかったよ……」
セバスチャンという老兵が王子を怒っている。
王子もこのじいちゃんには叶わないらしい。
「ところで、王子はなんでお城の外に出てたんだ、ちょび?」
「母上がご病気で、治療するにはどうしてもドゥードゥー鳥のしっぽが必要だったんだ。だから、勇気を出してドゥードゥー鳥の住む場所まで行ったんだ。途中で捕まっちまったんだけどな。えらいだろう!」
「王子! そのようなことはえらいとは言いませぬ! これからは……」
「セバスチャンどの! たいへんです! お尋ね者のブルータスが失神して倒れているのを発見したので、連れて参りました!」
「なんじゃと! これはえらいことだ! ブルータスと言えば、数年前にお城の宝の鍵を盗んだ大悪党だ! おのれ! 鍵をどこにやった! 黄金の鍵を!」
「黄金の鍵だと、ちょび? セバスチャン殿、もしかして……これですか?」
チョビはネックレスに付けてあった黄金の鍵をはずし、セバスチャンに差し出した。
「おおっ! そうです! これこそ、わが王国の宝! どこで、これを?」
「ドゥードゥー鳥の巣に転がっていました、ちょび」
「そうですか……実はこの鍵は、ドゥードゥー鳥に変身できるという言い伝えがある鍵なのです! ここ数年、ドゥードゥー鳥に付近の村が襲われていたのです。たぶん、ブルータスがドゥードゥー鳥に変身して悪さをしていたにちがいない! いやはや、ちょび殿! お手柄ですな!」
「そんな……当然のことをしたまでです、ちょび」
「どうぞ、どうぞ、お城に来てくだされ。王さまに謁見して、手柄をご報告くだされ!」
「ありがとうございます、ちょび。このはげ親父役に立つのか? とか思ってしまってすいませんです、ちょび」
「心の思いがタダモレですな? いやいや、まだこどもだから、素直でよろしい。じいやは心が広いので……」
「自分で言ってるよ。じゃあ、じいや! 城に戻ろうぜ!」
「はい。王子さま、この輿に乗ってくだされ。さあ、ちょび殿もどうぞ」
「すいませんです。ちょび」
チョビは王子と輿に乗り、お城へと入って行った。
初めて入るきらびやかな宮殿は、目を見張るばかりの美しさだった。
「おとぎの国のようです、ちょび~」
「はははっ! 大げさだな! でも、庶民にはまぶしい限りだろ?」
「ほんとに嫌なヤツです、ちょび~。こんなのが未来の国王かと思うと頭がいたい、ちょび」
チョビはその日、王城にお世話になることにした。




