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レインメイカー  作者: J.Doe
クラウディ・サンデー
40/131

見当違いのサルヴェージ 5

 それぞれのパーソナルカラーの衣装が翻り、シンセサウンドに乗る3声の歌声が会場の熱気を煽っていく。

 照明とサイリウムの光が混ざり合うその光景をキャットウォークから眺めながら、ユウリは携帯電話を耳に押し当てていた。


『斉藤泉と男達の身柄を確保した。ご苦労だったな、不知火』

「そんな事より、聞いておきたい事があるんだけど」

『斉藤泉の不起訴処分に関して、か?』

「そう。俺とアイツの立場が逆なら分からないでもないけど、場慣れした連中を連れて来るなんて出来るわけないし」


 おかしいでしょ、とユウリは電話の向こうの陳に肩を竦める。

 艸楽貿易の第1位後継者にして、社長の1人娘である艸楽彩雅。明神氏家艸楽の3家に自分達の夢を認めさせた才女を傷付けようとした罪は軽くないはず。それこそ、3家が法律から外れたテロリストを雇うほどに。

 何より、斉藤の追い詰められ具合にユウリは引っ掛かっていた。


『それに関しては、俺達だからこそしてやられた、とでも言っておこうか』

「出し抜かれたってわけ? 天下の大企業様が3つも雁首揃えてさ」

『それだけ敵が多いと言う事でもあり、そもそも我々では対応しきれないからお前を日本にまで来させたんだ。明神を敵だと思い込んでたお前だからこそ分かるはずだろう』

「……今だって、認めた訳じゃない」


 不満げに唇を尖らせてユウリはステージ上に視線をやる。ステージでは普段の様子が嘘のように詩織が他の2人を率いるように歌い上げていた。

 神秘性とミステリアスの演出と保持。

 以前彩雅に聞かされた詩織が前に出ない理由が、その光景でユウリは理解出来た気がした。

 綾香の圧倒するようなスター性とも、彩雅の無条件に人を惹きつける魅力とも違う空気感。それこそが詩織の持つ神秘性なのだと。


 技術的な面や楽曲の方向性のためかもしれない。


 それでもメディアへの露出が1番多い彩雅が、詩織にメインメロディを譲るようにコーラスラインを歌っていることがユウリには衝撃的だったのだ。


『艸楽様からお言葉をいただいた。諸々の件に関しては悪いと思っているし、これからは契約通りお前に不自由させたりはしない。だがお前が派手に動いた責任もある事を忘れるな』

「だったら、そっちは非常識なテロリストを日本まで連れてきた事を忘れないでよ――俺をあの家に置く目的が懐柔なら諦めてよね」

『お前も世の中もそんな容易いものか。こっちはお前の戸籍を2つも用意したんだ、慎重になるのは当然の話だろう』


 牽制するようなユウリの言葉に陳はあきれたように鼻を鳴らす。

 転校初日の暴力事件。学園の校舎に施した工作。撮影について行くための身分。ユウリが護衛を続けられるようにそれらに手を尽くしたのは紛れもなく陳なのだ。


「だったらせいぜい裏切らない事だね。"報酬"がもらえるまで精々アイツらを守ってやるから。必要ならアンタが怖がってる"誰か"も殺してやるからさ」


 ユウリは意趣返しのように嘆息交じりに吐き捨てて通話を切る。

 結局、ユウリは泉達襲撃者を殺さなかった。その背後関係を洗い出し、陳が恐れている"誰か"探り出すために。

 正直言えば、これまでの扱いや与えられる情報の少なさから、陳への不信感は積もり積もっている。

 しかし警察に突き出すだけでは、"誰か"の介入をまた許してしまうかもしれない。下手を打ってユウリの正体がバレようものなら、"報酬"どころか明神に抹殺されてもおかしくはない。


 だからこそユウリは陳に泉達を任せて、適切な処分を受けさせるしかなかった。


 ユウリは泉という情報源を提供し、陳は与えられた情報源から情報を手に入れる。

 不信感をお互いに抱きつつ、お互いを利用し合う。

 ユウリが"報酬"を手に入れ、陳が恐れている敵からレインメイカーを守るには他に方法などなかった。


『その目に焼き付けなさい! アタシ達が、レインメイカーよ!』


 サビが終わり、センターを詩織に譲られた綾香が握った拳を高く突き上げて声を張り上げる。

 まるで、その様は人々に豊穣を与えるレインメイカー。


「……悪くないじゃん」


 左手の手の平に感じる鈍い感触に、ユウリは無意識に握っていた左手の拳を解いてポツリと呟く。

 本人を前にしては言えない本音は、眼下の突き上げられた拳によって挙げられた歓声に消えていった。

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