ないものねだりのストレンジ 3
「それにしても綺麗な金色ね。日本人じゃブリーチしてもなかなか出ない色だわ」
「そんなものなのかな。スプレーで誤魔化してたけど、いい加減にちゃんと染めないと」
「あ、あの、黒く染められてしまうんですか?」
「悪目立ちするってのはもう諦めてるけど、黒の方がクールで格好良くない?」
ようやく彩雅の手から逃れたユウリは、どこか残念そうな詩織の髪色を見ながら言う。
光の加減で色の変わる詩織の濡れ羽色は、ユウリにとってクールである種の憧れでもあった。
羨むような視線か、それとも男に見詰められている事が恥ずかしかったのか。詩織はついに俯いてしまい、ユウリの憧れの色で顔を隠してしまう。
出会って2週間、同居を始めて数日ほど。とはいえ、内向的で男子に免疫のない詩織にには、他の男子とも違うユウリは刺激的過ぎた。
「なら、お姉ちゃんに任せてみない?」
「任せるって、髪色を?」
「他にもイロイロ、ちょっとお姉ちゃんに良い考えがあるのよ」
「……好きにすれば。変な風にしたら問答無用で黒染めするから」
「悪いようにはしないわよ、ワタシはお姉ちゃんなんだから」
そう言って心底楽しそうに微笑む彩雅に、ユウリは胸中に湧いた嫌な予感を拭い切れずに顔を顰める。
謝罪され、必要だったと理解はしていても、騙され、試された事実はユウリに彩雅に対する際銀芯を残しているのだ。
それでも自信ありげな彩雅の言葉は、尻込みするユウリの背中をやさしく押してくれるようだった。
「お皿洗ったらユウちゃんの服を買い物に行くわよ。一緒に行く人は?」
「キュリオシティ・キラーならアタシも行きたい! 急に行っても迷惑かもだし、ラブリエさんに連絡しとく?」
「お願いするわ、シオちゃんはどうする?」
「わ、私も、サマーカーデが欲しいので……」
「いや、ちょっと待ってよ。金なんてほとんど持ってないんだけど」
盛り上がり始める女性陣にユウリは待ったを掛ける。
最初に陳に渡された資金のほとんどは装備などに消え、資金がないからこそユウリは体を売るような真似をしていたのだから。
「え、トライトーンからのお給料出てんじゃないの?」
「陳は必要経費は明神から出るって言ってたけど、そもそもトライトーンからも出るのか、いついくらが支給されるかも分からなくてさ。まあ出たとしても、アンタらみたいな金持ちが行く店なんて無理だよ」
訝しげに眉を顰める綾香にユウリは心底残念そうに首を横に振る。
給料日が来れば口座ごと支給されるのかもしれないが、現状でそういった話は一切出ておらず、下着程度しか購入できなかったユウリは浪費を避けたかった。
「キュリオシティ・キラーはお得意さんだし、サンプル品を用意してもらうから大丈夫よ。陳さんにはお姉ちゃんから言っておいてあげるから行きましょう。スーツだってサイズ合ってるの作らなきゃならないんだから」
立てた人差し指を突きつけてくる彩雅の正論に、ユウリはうっ、と言葉を失ってしまう。確かにオーバーサイズなスーツは3人のマネージャーとしてはみっともなく、3人の躍進に対する足枷になってしまうのかもしれないのも事実だ。
「楽しみね、ユウちゃんはどんな格好が似合うのかしら」
「あ、赤とか似合う気がします。赤と黒のトーンオントーンチェックとかの」
「龍虎のスタジャン!」
「……アヤちゃんは、お姉ちゃんと一緒にお洋服見ましょうね」
提案を全面に受け入られた詩織とは随分と違う、彩雅の無慈悲な対応に綾香は表情を凍りつかせ、ユウリはその光景に思わず肩を落として椅子の背もたれに体を預ける。
不安や猜疑心がないという訳ではないが、そのお節介にどうしていいか分からず、ユウリは肩を竦めていた。




