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レインメイカー  作者: J.Doe
クラウディ・サンデー
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華麗奔放のラショナリスト 4

「セオリーとしてはもう少し粘られてから、なんじゃないの?」

「セオリーなんか知らないし、とにかくあそこから逃げ出したかったのはアンタでしょ」


 扉を閉めるなり、冗談めかすような彩雅の言葉にユウリは深いため息をつく。

 サイズの合わないブラックスーツを着て、メイクを施す事でどこか疲れている新人を演出。不慣れで使えない新人に全ての責任を押し付ける事で、対象とその背後に皺寄せが行かないように全てから守る。それだけが手段を講じる時間がない中で、ユウリが取る事が出来る唯一の護衛法だった。


 もっとも、そのせいで全ての皺寄せが来るのは自分なのだが。


「小林さんも悪い人じゃないのよ。出世のために未成年を食事に誘ったり、所構わずタバコを吸ったりするところ以外は。悪い会社じゃないんだけど、なあなあな部分が多いのはやっぱり引っ掛かるわね」

「そんなことより、陳が言ってたタバコが苦手な人ってアンタなの?」


 苦笑する彩雅にユウリはすっかり乱れた髪を直しながら問い掛ける。

 ライターは盗まれ、なけなしの金で買ったタバコは陳に燃やされたあの時。陳は確かに"タバコが苦手な人物が居る"と言っていた。

 詩織が人前に出る事がほとんどないというのであれば、タバコの煙を気にしなければならない人物は綾香か彩雅に限定される。そう考えていた矢先の事だったために、ユウリの質問は確認の意味を持っていた。


「ええ、アレルギーなのよ」

「……ならもっと嫌がりなよ。どこまで酷いのかは知らないけど、我慢できるようなもんじゃないんだからさ」

「そうは言うけど、アレルギーってなかなか理解されないものなのよ。ワタシの事を察してくれたのも、ユウちゃんと"カズ"さんくらいだもの。」

「"カズ"?」

「レインメイカーにとっての縁の下の力持ち、と言えば分るかしら。ワタシのせいで煙草をやめさせちゃったみたいで、少し悪い事をしてしまったわね」


 与えられた情報を覚えこむように、ユウリは手袋の指先でピアスに触れる。

 ユウリの代わりにマネージメント業務を行っているのだろう、ユウリにとっても、レインメイカーにとっても裏切られる訳にはいかないキーパーソン。それが"カズ"と呼ばれる人物は理解できたが、ユウリはどうにも納得が出来ない。


 敵対者達に殴り込みをかけた綾香。

 不特定多数が訪れる事を考えずに施錠していなかった詩織。

 アレルギーというハンデを隠していた彩雅。


 一部に至っては死に直結する可能性すらあった危機に瀕していたというのに、3人は甘い危機意識しか持っていなかった。

 本当は誰にも狙われていないのではないか、とユウリは考えるも、脅威がなければユウリのようなテロリストを手札に加える必要はない。護衛が誘拐犯であった事例などいくらでもあるのだから。

 ユウリに秘密裏に始末させたい人物が居るか、あるいはユウリを日本に呼ぶ事が目的なのか。


「ユウちゃん、着替えたいからちょっと出てもらっていいかしら?」

「ああ、ゴメン。臼井(ウスイ)に言って車を用意しておけばいい?」

「そうしてちょうだい。それと、臼井じゃなくて白井(シライ)さんよ。泉さんのところに顔を出したらすぐに行くから」

「……あんまり余計な事しないで、さっさとしてよね」


 考え込んでいたユウリはどこか棘のある言葉を言うなり、ずっと右手に持っていた彩雅の鞄をテーブルに置いて退室する。

 拗ねさせてしまっただろうか、と彩雅はクスリと笑みをこぼして扉の鍵を閉める。

 それほどまでに1つ年下のはずの少年は、2人の妹分達が言っていたようにどこか放っておけない雰囲気があった。決して低くはない能力を要しているとは分かっていても。


 しかし、それこそが少年の狙いかもしれない。


 命令をせずとも、率先して誰かに動いてもらう。そう仕向けるのは彩雅の常套手段でもあるのだから。

 艸楽という大会社の社長令嬢であっても、特別な力を持っているわけではない。それでも艸楽の党首候補1位であり、2人の姉のような存在でもある彩雅には問題を解決する義務がある。

 とはいえ、彩雅であっても全ての問題に対処できる訳ではない。立派な肩書きがあったとしても、彩雅は優秀な女子高生でしかない。


 だからこそ、彩雅は人に頼る事にしたのだ。


 命令するのではなく、率先して何かをやってもらう。ユウリが庇護欲を誘うように自分を演出したように、彩雅は尽くされるに値する存在として。

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