05 らてぃあ 著 卒業旅行 『我らX大学探検隊』
挿絵/深海様より御拝領
「諸君、わがX大学探検同好会の創立メンバーであり、永久名誉会員であり、部室のヌシでもある栄先輩がこの度どういうわけか卒業することになった。現会長の俺としては思い出に残る探検を企画し、これまで同好会のため尽くしてくれた偉業を称え、先輩の卒業を祝いたいと思う」
卒業旅行ならぬ卒業探検というわけだ。吉備会長は会員の前で宣言した。会員と言っても僕を含めて出居と伊井の3人だ。ほかに幽霊会員が5人いるらしいが会ったことはない。いつもなら部室で惰眠をむさぼってる部室のヌシこと先輩は珍しく不在だ。
「あのお、」
僕は恐る恐る手を上げた。
「ハイ、椎名、何か案はあるか? 」
「費用がありません。去年の雪山の遭難で会の蓄えが底をついてます」
うおお、と会長は頭を抱え、巨体をよじらせてうなった。
去年、雪男を探して雪山に登った僕たちは見事に遭難してしまい、ビバークすること3日、さすがに走馬燈を見た僕はやむなく携帯電話で救助を要請した。警察と消防だけでいいと念を押したが、地元の有志が救助に加わり、救助後その費用50万円が突き付けられた。会の蓄えで払った残りは分割で支払うことになっている。
「あれほど救助は呼ぶなと言ったのに」
「呼ばなかったら会長はともかく僕は今ここに居ないですよ」
ハイ、と出居が手を上げる。
「下水道でワニを探すのはどうやろ」
「却下、俺もマンホールから中に入るのはきついが、百貫デブのお前が言うな」
「そんなら廃業ホテル探検は? 」
「それは肝試しだろう。今考えてるのは先輩のためのビッグな企画だぞ」
「じゃ、筏で太平洋横断」
「やめろお! カナヅチなんだ」と僕は叫んだ。
「そういえば、栄先輩は秘境とかUMAは好きなのに心霊現象とか苦手だよね。オレなんて青白い顔が気持ち悪いから近寄るなって、よく言われるんだよね」
今まで黙っていた伊井がぼそぼそと言ってヒヒヒヒヒと笑う。
「むう、一理ある。栄先輩には秘密にしたかったんだが、」
「でも、聞いておいた方がいいですよ。魔女の森の時は本気で怖がっていたし」
森で道に迷った上に方位磁石もおかしくなり、時々視線を感じるという怪奇現象に遭った時、流石の栄先輩も顔面蒼白だった。
会長が栄先輩に電話を掛ける。
「あ、先輩、今いいッスか? いえ、次の探検の企画を相談してるんでス。何か希望はありますか? エ? 行かない? ど、どうして? ハイ? 国内旅行? 卒業記念に普通の旅行ですか?? あれ? 今そこに誰かいます? 」
目が血走る。小さな携帯電話に会長は全身全霊でへばりついていた。
「どうしたんですか? 先輩が探検に行かないって」
会長は おおおおおおお、とうめいた後「女の声がした」と震える声で言った。僕たちは衝撃のあまり10分近くも黙ったまま顔を見合わせた。
「本当ですか? 野良猫の鳴き声じゃなく? 」やっと僕は言った。
「間違いない。先輩のことを〈ヒデ君〉と呼んだんだ。しかし我々に黙っているなんて何故だ。電話だって一方的に切れた」
何故だもなにも、暴走筋肉馬鹿の吉備会長に、百貫デブの出居、生きた骸骨の伊井、いずれも道を歩けば女子が避けて通る連中だ。背が低くて近眼のいじられキャラの僕だって仲間と思われたくはない時がある。
「俺たちより彼女と旅行か? 残念だ、我々と先輩の信頼関係がこんなことで崩れるなんて」
「そういえば、先週、先輩がごっつううまそうなサンドイッチを食べてたなあ。見てたら隠されたわ」
よだれを呑み込んで出居が言った。
あの先輩に彼女なんて、この世に天使がいるのか。先輩が幸せなら僕たちは祝福するしかない。
しかし次の瞬間伊井の一言ですべて引っ繰り返った。
「騙されてるって可能性は無いんだよね? 」
全員の視線が交差した。
了




