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神様なんですか!?  作者: ぱぴぽ
第二章 新天地にて
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第七話 食事の恐れ

……て、


なんだ?

聞き覚えのある声が耳元で響く。


…きろ、


誰だ、頭の中ではわかる筈なのに出てこない。

誰かが呼んでいる?


…………。


おきろ!


「ふぁ!」


反射で起きあがる。

意識を睡眠から覚醒へとモードチェンジする。


誰だ!

俺の安眠を邪魔する奴は。

ここをどこだと思っている!!

くそミハエルめ!


「かみにむかっ、」


「やっと起きたか。ローラン、夕食の時間だ」


俺がいいかけたのを遮り、クリスは呆れ顔で俺に告げる。

え、もう夕食? と外を見てみると見事に暗くなっていた。

もうとっくに日は落ちている。


じゃなくて、危ない、危ない、神に向かって何をしているんだって言いかけてしまった。

ここの世界では俺は神でも何でもないただのショタにすぎない。

暴れても、神の権力を振りかざしても何の意味もないのだ。


って俺は床で寝ていたのか。

変な体勢で寝たからか身体の節々が痛む。

痛むところを優しく揉みながら頭のあった所を見ると本がある。

どうやら本を枕にして寝てしまったようだ。

思えば首も痛えな。


「何言ってるんだ? どうでもいいか。ほら、早くいくぞ」


クリスは俺の手を取って立ち上がる。

そのままドアを開けて廊下へゴー!

まて、この体勢だと俺は……引きずられてるぅ!


カレッドさんよこのお兄さんを止めておくれ、と希望を込めて部屋を見回すが居ない。

夕食の準備だ、とか言ってたか……



「わわっ、すみませんでしたー」


俺は引きずられながらあまりの痛みに涙をこぼした。

ドアの溝に引っかかった耳を手で覆いながら引きずられていく。



ずりずりずり……


引きずられて約二分。

食堂の前に着くまで引きずられた。


最後の方はゴリゴリと音を立てる頭の心配をする余裕すらあった。

探検で行った時は一分と掛からなかったのに引きずると倍以上かかるようだ。



「ふぅ、到着」


クリスは俺を離して手をはたいた。

息切れするくらいなら引きずらなけりゃいいのに、と赤くなった体の側面を優しくなでながら思う。


「うう、痛いですよ」


「え? そんなおかしいな。意図的とはいえ傷害行為ではないから体力の減少はない筈なんだけど」


クリスは訳がわからないことを言っているが適当に話を合わせようか。

話に矛盾が生じないように。


「そ、そうでしたね」


背中についたゴミを払おうと思ったが、ゴミはついてなかった。

これこそ塵一つないってやつか。

あまりの細かさに驚き、心の中でカレッドさんを労う。


「ローラン様、クリス様。食事が出来上がりました。ご領主様も奥様もお待ちですよ」


カレッドさんでないメイドが手を拭きながら出てくる。

この家では二人のメイドを雇ってるって言ってたかな。

結構顔がそっくりに見えるが、家族かな?


「あ、キレッドさん。ありがとう」


少しキレッドさんの方が年上に見えるし、顔の似具合的に姉妹という確率が一番高いと推測される。


「ありがとうございます」


俺もいろいろ気になるがまずはご飯だ。

最近はずっと天界に居たので人間界のご飯は久しく食べてないのだ。

だからこの世界には期待したい。



食堂に入ると通称お誕生日席に渋いオジサマがどっしりと腰かけていた。

どっしりと言っても別に太っているわけではない。

どちらかといえば細めな方だろう。

元の世界基準なら。


見た目としては茶髪に少し白髪の短い髪、鍛えていそうな腕、顔はクリスに似ているような気がしないでもない。

服は中世の一般市民風だ。

これももちろん俺の世界基準で。


このオジサンが俺のお父様というわけだ。

多分。


そのオジサンの横に座って待っているのはオジサンより少し若い女性だ。

おばさんと言ってはならない。

そういうのは地雷だし、とは思うものの別にこの女性はおばさんってほど老けてはないないから、大丈夫か。

自分で自分に弁解して頷く。


この人の見た目は金髪のセミロング、目がたれ目なのがポイント。

そのお陰か若めに見えるっぽい。

服はドレスかと思ったがそこまでたいそうなものではなく、白いドレスもどきを着ていた。


この女性がお母様なわけですね。

りょーかいしました。


「お父様、お母様、お待たせしました」


クリスがお誕生日席に向けて頭を下げる。

俺も習って下げておく。

元はといえば俺が悪いんだからな。


「大丈夫だ。そんなことより俺はお腹が空いているんだ、早く食事にしよう」


お父様は手をひらひらさせて、我慢のできない子供のような表情を浮かべる。

多分そんな表情なのだろうが顔が渋いのでギャップが異常だ。

端的に言うと、もうなんか違う。


「少々お待ちください。すぐ運んできますので」


カレッドさんが小走りで奥へ戻っていく。

スカートが風でめくれるとかいうイベントは無しだった。


「ああ、そんなに急がなくてもいいよ、カレッド。こぼされては堪らないからね」




「お父様、今日ローランが自分から外に出たいって言ったんですよ」


クリスは突然今日の出来事を語り始める。

それに対し、お父様よりお母様が反応する。

まあ、と言いながら口を押さえている。


「そ、それは本当なの?」


「うん。それにローランは書庫から魔法の本まで借りて行ったんですよ」


書庫ではなく書斎から借りたんだけどな。

ここは俺としては最重要ポイントだ。


「嬉しいわ。ローラン。貴方は魔法使いになりたいのね!」


笑顔で両手を上にあげて喜んでいる。

失礼だとは重々承知だけど、この家に大人はいないのか?


「あ、え、何となく面白そうだなって思ったんです」


しどろもどろになりながら答えるがこれは本音。

この世界では底辺からやり直しなだけに興味が尽きない。

いや、底辺ではないか。

神から見たら大差ないけど、下から見たら大きな差だということに気付かされる。


「そう! 魔法は頑張れば楽しいから頑張ってね」


「おい、剣もやればやるほど強くなるぞ。なあ、クリス?」


「そうですね。敵を切り伏せた時の快感は……」


クリスはうっとり目を閉じる。

切り伏せたのは何なのだろう。

人? 魔物?


「でもローランはとりあえず楽しい方をやるといいよ」


クリスはそう言って締めた。

ちょうどそのタイミングでカレッドさんとキレッドさんがメインディッシュを持って入ってくる。

肉のいい感じに焼けた匂いが、空腹を忘れていた腹を刺激してくる。

なんだかよりお腹空いてきた。



「ご飯だ!」


お父様は運ばれて来た夕食を見て歓声を上げる。

もう突っ込まない。


「「いただきます」」


クリスとお母様は運ばれて来た豚肉? のハンバーグをナイフで切り、食べる。

ふむ、こうやって食べるんだね?


「い、いただきます」


ナイフで切る系の食べ物は結構苦手なので俺はナイフを持って固まる。

やはり見様見真似で出来るものではない。


「あれ? 食べないの?」


「い、いや、食べますよ」


不思議そうに見てくるクリスに慌てて弁解する。

今俺の中ではフォークとナイフと俺の手が戦っているんだから、邪魔はしないで欲しい。


「そうか。ならいいけど」


うう、なんか見てるよ。

じっと見てるよ。

クリスが見ているよ。


震えながらナイフを持つ。

元ローラン氏を信用しよう。

彼ができることを祈ってひと思いにナイフを突き出す。


ナイフはハンバーグに浅く刺さり、一本の綺麗な線を引く。

小さく……小さく……

お、うまく切れた。


後はフォークを刺すだけ。

いただきます。


俺が咀嚼し始めるとクリスはこちらを向くのを止めて自分のハンバーグを食べ始める。

ふん、驚いたか。


「おお、上手くなったな。ローラン」


お父様はもう食べ終わったのかデザートをスプーンで掬っている。

もう、突っ込まない。


「えへへ」


元ローラン氏頑張ってるな。

俺は出来ないよ。


「「ごちそうさまでした」」


クリスとお母様はまた同時に食べ終わる。


「ごちそうさまでした」


俺も急いでご飯をかき込み、挨拶。

自室に帰ろうか。

お母様とお父様に会釈をして食堂を出る。


キレッドさんとカレッドさんが食堂のドアの前で待っている。


カレッドさんが前に出てきて俺に言う。


「お粗末様でしたー」


「カレッド!! すみませんローラン様」


キレッドさんがカレッドさんを制す。

言葉遣いがどうこうって言いたいんだろう。


「すみません、ローラン様。姉がうるさくって」


カレッドさんはキレッドさんの言葉をさらりと受け流し、俺を抱え上げて部屋へ逃げる。

キレッドさんは何か言っていたがカレッドさんは無視を決め込みランナウェイ。

追っては来なかったから大事な事ではないのだろうけど。




「キレッドさんってやっぱりカレッドさんのお姉さんだったんですね」


部屋で降ろされてから、首を捻りながら言う。

運び方が雑だったので首が痛い……


「ああ、そうです。うるさい姉ですよ」


鬱陶しそうな顔をしてカレッドさんはぼやく。

喧嘩するほど仲がいいタイプにはどうしても見えなかったんだけど。


「なんでお姉さんと一緒の職場なんですか?」


「えー、言わなくては駄目ですか? 命令ですか?」


カレッドさんは唇を尖らせて言う。

絶対言いたくないといった顔だ。


こりゃ面白そうだ。

二ヒヒヒヒヒ。


「もちろん。命令に決まっています」


「いや、しかしもう寝る時間なんで寝てください。明日起きれませんよ」


「ふうん、お父様に言ってしまいますかねえ」


手を口の前に持っていき、邪悪に笑う。

クビになっちゃうよ。


「子供らしくない笑顔ですね。はあ、仕方がないですね。言えばいいんでしょう」


「そうです。言えばいいです」


「言ったら寝てくださいね」


「はーい」


俺はベッドに入る。

子守唄を聞く子供の気分になる。

これは、昔話だな。


「昔々……」




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