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神様なんですか!?  作者: ぱぴぽ
第二章 新天地にて
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第五話 三人の秘密

「よし、それじゃあ屋敷探検と行くか!」


木刀を何処かへ片付けて帰って来たお兄さんは声を弾ませて言う。

何がそんなに楽しみなのか分からないが、喜んでもらえるならそれでいいか。


「クリス様、何処へ行きますか」


「秘密さ、でもまずは普通のところをまわろう」


普通のところって何なのだろう。

内心首を傾げつつ表は嬉しそうな顔を取り繕う。

まぁ、今言わないというところから推測すると秘密基地とかの案内とかでもしだしそうだ。




「ここは調理室。いわばキッチンだね」


クリスは少し暗くなっているので調理場のランプに火を灯す。

淡い赤の光が部屋を照らす。


「私がご飯前に何時も居なくなるのはこのためです」


二人が交互に説明してくれる。

こりゃ役に立ちそうだ。

俺は頷きつつ二人の話を聞き、頭にインプットする。


「へえ、ここに行っていたんですか」


適当に話を合わせる。

前の魂との矛盾が出たらまずいからな。


「はい。しかし、料理中は危ないのでくれぐれも近づかないようにお願いします」


くるりと包丁を回してカレッドさんは笑う。

待てよ、危険すぎるだろ。


「包丁やら火やら危ないからな」


お兄さんことクリスもカレッドさんの行動には突っ込まず注意する。

危険なことしている人横にいますよ。


俺はため息混じりに調理室をぐるりと見回す。

調理台に新鮮そうな野菜と肉が乗っている。

緑の野菜が比率的に高い。


肉か。


「この肉って何の肉ですか?」


「この肉はポーキングの肉です」


カレッドさんは名前だけ教えてくれるが、ポーキングってなんだよ。

魔物の名前かなんかか?


「ポーキングは鼻をふごふご言わせている丸い食用魔物だ」


察した、ピンクのイメージがあるあの動物か。

よく太った人への卑称で使われるあれだ。


「本日はローラン様が自発的に外へ出た記念に豪華な物を作りますね。何にしましょうか」


腕まくりをして鼻息を荒くしている。

まだ準備を始める時間ではないはずだが……


クリスは笑顔を引きつらせて、次の場所へ逃げるように俺の手を引く。


大丈夫だ。

今のカレッドさんには俺も引いた。

誰も責めやしないよ。



俺はクリスと共にカレッドさんを調理場に置き去りにして別の部屋の前へ来た。

ごめんなさい、カレッドさん。

でも貴女のシンキングタイムを邪魔するわけには行きませんでした。


魂が転送された部屋のドアは薄かったが、ここのドアは随分重厚な作りだ。

重そうなのはもちろんのこと、扉一枚の面積がでかい。

何の部屋だろう。

何か大事なものでも仕舞っていると考えるのが妥当。


クリスはドアをノックしてドアに耳を近づける。

そして軽く頷く。


「ここは書庫。よし、誰も居ないっぽいな」


誰かいたらまずい事でもあるのか?

それなら入りたくないが。

恐怖を煽る発言はよしてね。


「どんな本があるんですか?」


「ああ、今入るから自分の目で見るといい」


そう言って重そうなドアを押し開ける。

見かけによらず軽いらしい。


先に入ったクリスに続いて俺も中へ入る。



一言で言えば書庫というほどでもない。

蔵書数が百有るかないかだ。


しかし、全く文字が分からない。

背表紙でさえ読めないな。

数冊ペラペラめくってそう思う。


これは文字を覚えなくてはならないやつか……

俺は落胆して肩を落とした。


俺が本をじっと見ているのに気付いたのかクリスが近づいてきて、俺の持っていた本を覗き見る。


「それは魔法初心の心得って書いてあるな。魔法でもやりたいのか?」


「魔法の教本ですか?」


読めないからそれが書いてあることすら分からないんだよな。


「まあそんなところだ。貸してごらん」


俺が本を渡すとクリスはパラパラと流し読みをする。

そして本を閉じて俺に返す。


「この本には初位、下位、中位の魔法が載っている。けど、僕にはさっぱりだ。それが載っている事以外分からないや」


お手上げと言ったポーズだ。

少し無責任なんじゃ無いの?

心の中で責めそうになるけど、クリスは好意で動いてくれたんだ、無下にしてはいけない。


「初位とか下位ってなんですか?」


「それは魔法、剣術どちらにも通ずる階級の事だ」


クリスは難しそうな顔をしながら説明し始める。



剣術と魔法には全部で八つの階級がある。

上から神位、天位、空位、聖位、上位、中位、下位、初位。

初位くらいなら誰でもやり方を覚えればできるが、聖位を超えると使い手が少ない。

また、上にいくほど効果や威力が強いので気をつけるべし。


「因みに僕の剣術は朱雀流が初位で青龍流が下位だ。魔法は……まあ、お察しと」


朱雀流も青龍流も剣術の流派らしい。


朱雀とか青龍はこの世界にも伝承とか有るのかね。

初位とか言われてもどの程度のものなのか分からない。


「奥が深いんですね」


聞くのがだるくなってきたので話を打ち切りにかかる。

有力な情報は得られたしな。


「ああ、でも剣術か魔法、どっちに進むかはローラン次第だけどね」


どちらかしか進めないのだろうか。

仮にもここは貴族の家だろ?

領主とか役人とかないのだろうか。


いや、あってもやらないけど。


「ここは貴族の家ですよね」


確かめるようにクリスにたずねる。


「うん、僕の記憶だと下流貴族の上の方ってお父様が言ってたかな」


「領主とかではないんですか?」


「ははっ、勿論お父様は領主だけど跡を継げるのは長男だけなんだ。僕もローランも継げないよ」


長男、クリス兄さんより上の子供がいるのか。

驚くほどでもないが、屋敷には居ないのだろうか。

少なくとも探検では見かけていない。


「スキピオ兄さんは今は王都で経営学やら学んでるらしいよ」


「へえ、その王都ってどれくらい遠いんですか」


後のためにも情報は集めておかねばだ。


クリスは可愛い弟の頼みだからか質問攻めにも答えてくれる。


「地図でも持ってくるよ」


クリスは台の上に乗って背伸びをしている。地図は一番上の段にあるらしい。

落ちそうになりながらも地図を取って帰ってくる。


だいぶ地図は黄ばんでいたが、読めなくはない代物だ。

もちろん文字は全く読めないけど。


「この真ん中にあるのが王都なんだけど、僕らの住んでいるユリウス村はこの地図の端っこ」


地図の中央を指さして、その後東端をさす。


随分小さな村だけど、そのスキピオ兄さんはここの経営のために学んでるのか。

貴族の癖に頑張れる奴が多いな。


とりあえず、俺は魔法を原理とかから学び直したいですね。

神の頃は全知全能だったからなんでも自然に分かってしまった。

でもそれはつまらないから。


「この魔法の本借りてもいいですか?」


突然の事で驚いたのか、クリスは持っていた地図を取り落とす。


「うん、ここの本はお母様の物だから僕にはなんとも言えないな」


「ではお母様に聞いてみましょう! で、何処に居るのですか?」


「えっと、多分ローランの部屋の隣かな」


よし、さっさと行くぜー!

と立ち上がったその時、カレッドさんが追いついて来て、大声をあげながらドアを開く。

ドアはバコーンと爆音を響かせる。


「ローラン様! クリス様! 置いてかないで!」


「「カレッドさん!?」」


俺もクリスも驚きで声を上げる。

ひぃ!


「三人で探検するのでしょう! おいでがないでぐだざいー」


激昂しているがやがて涙声になる。

何となく申し訳なくなるな。


「ご、ごめんなさい!」


クリスが謝る。

さっきまで引いていたってのにどんな方法使ったんだよ。


「なんだか夢中そうだったのでつい……」


俺は言い訳。

言い訳はいいわけ?

勿論だ。


「いいですよーだ……? ローラン様、それって」


カレッドさんは俺の持っている魔法の教本に目を落とす。


「これは魔法の本ですが」


正確に言うとらしい、だけど。


「うわー、懐かしいです。昔魔法使いになりたくて練習したんですけど、適性がなかったのかうまく行かなかったんですよね」


「へぇ、カレッドさんも魔法やろうとしたんだ。初耳だ」


「ええ。それからはメイド道一筋ですが」


カレッドさんとクリスはにこにこ昔を語る。


「おっと、そろそろ行かなくちゃな」


「何処へ行くのですか?」


クリスは俺の持つ魔法の教本を指差す。


「これを貸して欲しいんだって」


ははぁんとか言ってカレッドさんはにやり。

得意げな顔をする。


「大丈夫ですよ。魔法、剣術の本は貸出自由なんです」


「誰が言ったの?」


「まさかカレッドさんの独断ではないですよね」


俺らの心配そうな声にカレッドさんは 声を荒らげる。


「ご領主様が仰っておりました! 皆の学習のためならってねぇ!」


そんなに怒ることでもないだろ。

一応俺は神様だぞ?

別世界の。


「で、ではありがたく貸してもらいます」


俺はそそくさと逃げようとする。

が、クリスとカレッドさんの二人が笑顔で両腕を掴む。


「さ、まだまだ探検は終わってないよ」


正直どっちが言ったか分からなかった。

それに対して俺は笑って頷くことだけしかできなかった。

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