人生形成の幼児編 後編
ちょいと短め。これで幼児編は終わりです。
冬。冬!
冬である!
そんなこんなで冬である!
「わあ!ゆきー!ゆきふったー!」
きゃあきゃあはしゃぐ彼女たちを見て私の中の機嫌もぐんぐんと上昇し、とどまることもしらない。
ホワイトクリスマスだ。
今日は朝からどっさり雪が降るという天候で保育園の窓から見る木々はみんな雪化粧をしている。
タイムカプセルは雪が降る前にしっかり埋められた。
窓に額をくっつけながら、しんしんと降り続ける雪を静かに見つめた。
クリスマス会。
今日は保育園のクリスマス会でもあった。
しかしなぜ…、私の周りには人がいない……?
折り紙や和紙で綺麗に飾り付けされた空間に私はぽつんと取り残されていた。ええ?
どこからか聞こえる賑やかな声に私はぴんときて場所を移動した。
車が走る通りが見える窓からグラウンドが見える窓へ。
そこには思った通り、はしゃぐ同期の仲間たち。
珍しいことに美作さんもいた。
みんながみんな雪にはしゃいでいた。私も然り。
まあ寒いから見るだけですませよう。
机に置かれた私用のココアを手に取り、窓際で静かにその様子を見守っていた。
昨日の夜から降っていたので5センチくらい積もっている。子供たちは雪だるまや雪合戦で遊んでいる。かまくらは難しいかな。
手元にあるマグカップで手を暖めながらにこにことその様子を観察。かわいいなあこいつら。
そんな微笑ましい雰囲気を打ち壊したのは5人の少女たちだった。
窓を背中に私は四面楚歌である。窮地である。
「いっしょにあーそぼっ」
あれ?なんか険悪な感じだと思ったのは勘違いのようだ。
ここで断るには理由がないので私は素直に頷き、コートと手袋を手に取った。
まだ雪が降る、そんな寒い中私を待ち構えていたのは落とし穴だった。え?
「大丈夫~?」
「え?転んだの?」
最初はそれなりに心配されているような感じだったが、
「見た目どおりどんくさいよね」
「いっしょにいてはずかしいよ」
なんでこうなった。
落とし穴にはまった私は下に手をつきながら座り込む。その周りを5人ほどに囲まれる。保育園ってこんなこともあるんだね。思ったのはそれだけだった。その言葉が中学や高校だったらそれなりに傷ついていただろうけどこの年ではたいして傷つかないのね。
少女たちの言葉を聞き流しながら私は立ち上がり、雪をほろう。
そしてへにゃり笑い、一言。
「あそぼっか」
先手必勝とばかりに私の雪玉流星群が炸裂した。
傷つきはしないけどそれなりに怒ってはいるんだからね?
私の雪玉はある程度配慮してあるので柔らかな刺激にしかならない。その気遣いは誰も褒めてくれやしない。
しかしそんな感傷に浸る暇なく、私の雪玉が最初に当たった子が「やったな!」といわんばかりにべしっと雪玉というか雪を投げてきた。
それを見ていた少女たち以外の園児がどんどん雪合戦にまざってきたので、最初はふるふると顔を赤くして俯いていた少女たちもいつのまにか参加していて、大団円でそれは終わりをつげたのだった。
それから。
私の知らぬ間に少女たちの怒りは解消されていたらしくお人形遊びに誘われたのはすぐあとのこと。
ううん。子どもって……分からん。
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そんなクリスマス騒動から早3ヶ月。
「卒業おめでとう」
「ありがとう、先生」
私もいよいよ卒業である。
ばら組の先生ともお別れだ。
「タイムカプセル、ちゃんと探しに来るのよ」
「うん、先生はそれまで見張っててくださいね」
また会える。また会えるのだから寂しくはない。
そんなこんなで怒涛の──…いや、のんびりとした園児生活は幕を閉じた。