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人生形成の幼児編 中編

それは鮮やかに葉の色を変えていた季節がおわる頃。秋の下旬の時だった。


▲△▲△▲△▲△▲△


「───…」


(…今日は何して遊ぼう)


妄想か、極限無想か、座禅か、とバカみたいな冗談を考えながら廊下をふらりと彷徨い歩く。一ヶ所にとどまらないのは友人たちに見つかるのが嫌だからだ。この肌寒くなってきたころ、雪が降るわけでもないのでほぼみんなが園内にいるのだ。


つまりは、面倒くさいのが4ひき──…4人いるということだ。


私はどちらかというと、知性を磨いたり、想像力を活発に働かせたり、ぼーっとただ宙を見つめたり、と座り込んで何かをしているのが好きなのだ。

その点あいつらは違うのである。ちょこまかちょこまか動く動く動く。動いて動いて動くのだ。

私は週末や夕方近くは習い事で予定を埋めているため保育園を休息の場として活用しているのだが、友人たちにとってはのびのびと体を動かせる場なのだろう。

だからこそ。だからこそ私としては友人たちと一緒に遊ぶのは避けたいのだ。いや、遊ぶのはいい。座って必要以上体を動かさないのならば。


しかしだ。友人たちにそんなこと出来ないだろう。断言してやる。


新藤くんは外で体を動かすのが好きなのだが、わりと手先が器用であることが判明した。刺繍も折り紙も上手いし几帳面だしなんだこいつ、絶対A型。と、いう感じで机仕事は向いている。しかし性格がそれを邪魔する。「刺繍も折り紙も女のやることだ!」と。

お い !男女差別は良くないですよ、新藤くん。ということで。彼は室内ではもっぱら風船でバレーボール的なのやら新聞紙の剣で戦ったりやら狭い中追い駆けっこを楽しんだりしているのだ。


そして葉月くん。

葉月くんはお花を観察したりするのが好きな乙女系男子。頻繁に虫を捕まえてきては私に見せたりするので本命は虫なのかもしれないけれど。

そんな葉月くんは、私たち気の許せる友人以外にはあまり近づかない。言ってしまえば極度の人見知りだ。だからか室内では一ヶ所にとどまることなくいろんな場所に隠れたり寝てたりする。とどまっているとちょっかいをかけられるということもあるのだが、もとよりじっとしているのはあまり好きじゃないらしい。まあ、寝るのは好きなようだ。寝ているのを見つけてしまったときは凄くびっくりした。見てはいけないものを見てしまったようだった。寝顔はさながら天使でした。教師たちの間で密かに流れる彼の愛称はエンジェルである。そのまんまやん。


ついで宮崎さん。

活発。お転婆。じゃじゃ馬。こんな子だ。B型女子である。不器用である。見てのとおり事務的作業も勉強も向いてない。失礼ながらのちの苦労が目に見えたよ。まあ運動神経は女子一だろうが。彼女ももっぱら風船バレー要員だ。子どもだしいいんじゃないかな。と見守っているが度々将来を少し心配してしまう。

彼女は刺繍だお絵描きだには向いてないから遊び相手は男子がほとんど九割型そうだ。一割は私と美作さん辺り。男子と遊ぶのに抵抗はないようだし、イケイケ女子たちの間で交わされるマル秘議談(恋バナ)にも興味はカケラほども存在しない。今は何も言われないが将来、女子に嫌われそうだ。おもに一方的に。心配である…。


そいで、美作さん。

彼女は元から室内専門である。私との遊び回数も多い。だがたからこそ分かったことも多い。

彼女はたぶんAB型だ。考えることが何ていうかAB型っぽい。うん。普通にお絵描きしていていきなり立ったかと思うとどっかにふらりと居なくなる。前に一度どこに行くのか尋ねたところ「ちょっと向こう行って来る」とだけ言われるた。

トイレかな、と思ったがトイレに行くときはそう言うので多分違うのだろう。

人間関係もわりとあっさりしていてこの年にしてなかなかクールな性格なのだ。ドライともいう。繊細っぽそうなので価値観が合わない人とはあまり付き合いたくないと無意識に壁を作る模様。子供だから壁を作る範囲の制御が曖昧で誰ともどっち付かずな関係になっているような印象を受けた。途中でいつの間にか居なかったり、この子もわりとちょこまか動くのだ。


(……みんなして、なんかなあ)


そんな中私はどこに行こうかと彷徨っていたのだ。


「──…で、」

「……が、──は」



(……?)


声が聞こえてくる。

近くを見渡してみれば前方左に職員室と思われる部屋がある。ちょっと騒がしいような気がしたので好奇心が疼いた。



「──…さんは、」



私の、名前?

自分の名前が、誰かは分からないが先生の口から飛び出してつい、と眉を寄せた。なんだ?


「──…あの子は少し変わってますよねぇ」

「賢い子なのよね」

「だからこそですかね。習い事もたくさんやっているようだし感じることも色々あるのでしょう」

「それにしてはちょっと賢すぎますよね。まわりをよく見ているっていうか」


なんだこれは。


褒められているのか貶されているのか、と疑問がよぎったが考えるのはそこじゃない。

子どもの評論会みたいで少し感じ悪いとかそういうのでもない。


おかしく、思われている。

私のことが。


よくわからないがそれが頭を占めた。

目を瞬かせて自分が何を言いたいのか整理しようとしたけれどごちゃごちゃとなにか絡まりあい頭は思考を停止した。


ふらりと足はそこを避けるように動いた。

これは反射じゃない。だから脳は正常に動いている。


けれど、なんだ。


思考回路はなにを考えているのかぐるぐると渦を巻くばかりで私に解決する手立ては教えてくれなかった───…


▲△▲△▲△▲△▲△



「──!」

「──…」


「─っ─!」



騒がしい騒がしい。


うるさいなあ。静かにしてよ。


宮崎さん?私の近くで風船割るのはやめてよ、一緒に遊んであげるから。ちょっとだけだけどね。

新藤くん?大丈夫だって。これでも体は強いほうだよ、だけどあんまり走らせないで…──だから、だからっ!だからいい加減静かにしなさいっ!


「──…はい!じゃあ石役決定ね!」


「……え?」



秋。

それは食欲の秋。

秋。

それは読書の秋。

秋。

それはスポーツの秋。

秋。


それは──…芸術の秋である。



「なんでお姫さまじゃなくて石に手あげたの?」

不可抗力です。


「そう言うときはりっこーほっていうんだよ、ゆうちゃん」

うん。うん、そうですね。



「…お前がお姫さまやるんだったら良かったのに」

デレた。



「今ならかえられるかもよ?」

大丈夫です。



私はたとえ不可抗力で。

いやおもに自分の所為だけど。

石役なんてセリフが微塵もなくても。

大丈夫なのよ。

そう、大丈夫よ。お姉さん元気よー…。


(保護者の前で、石、か…)


私的には気にしない。気にする要素微塵もない。だってセリフ覚えるの無理だしやる気だってないのだから。だけどなんか。


(…ご両親に申し訳ない…!)

内心叫び出したくて仕方がなかった。


脳内修羅場中、現実世界では激しい戦いを制し、お姫さま役を勝ち取ったのはもも組の安藤さん、柳さんの2人だった。お姫さまは登場時間が長いので2人に区切ってあるのだ。安藤さんはガチ可愛い子である。柳さんはマジ可愛い子である。


ちなみにこの劇はもも組ばら組りんご組でつくられる。薔薇科である。あとみかん組とすみれ組がある。ここでもう1つ劇が作られるようだ。


劇はシンデレラをやるんだけど、私は石役(・・)で。新藤くんが王子様、葉月くんが魔法使いだ。私的には葉月くんの方が王子様っぽいけれど、園児たちの見解は違う。誰よりも強く男らしく格好良い…、らしい新藤くんが選ばれたのだ。うむ。宮崎さんは継母役。ドレス着るんだー、とはしゃぐ彼女、微笑ましい。だが、本当にそれでいいのか。

美作さんはお星さま役。私と大差ない…はず。いやなんか、どっちもセリフないのになんで対応違うの?おかしくない?これが世に言う経済格差?


とうなだれつつもまあいいやと思う辺りが私だろう。もらった台本をぱらぱらーっと速読した。ココ最近覚えた技だ。

私の家には本が大量にある。だがしかし、私(幼女)が読むような本ではない。なので読むのならば見つからない工夫が必要なのだ。そんなことするなら読まなくてもよくね?とか思ったが家では私は5割がた暇だ。残り5割は習い事をしている。前世からの影響か、私はテレビを全然見ないので暇なときはテレビとかそういうのはあまりしない。そんなこんなで身につけたスキル、SOKUDOKU。地味にこれから役立つだろうとか思ってる。おもにテストとかテストとかテストとか。うん。あんまり役に立たないね。


一通り台本を読んで思ったことはまんまシンデレラだったということ。いや当たり前かもだけどオリジナルストーリーとかを期待してた…。


石役はちなみに二回出番がある。


シンデレラの部屋にぽつん。

かぼちゃの馬車の前にぽつん。


誰がなんといおうと出番は二回もある。うむ。立派な石になってやんよ。意気込んだ私は似たような役の木役の人たちのもとへ駆け寄った。木の精霊よ、私とあそびましょー。


別に石役がショックだったわけではない。ふん。


そんなこんなで順調に劇の練習は進んだ。そのはずだった。



「──…え?」

「あら、聞いてないんですか?」

「え、はい」

「11月の20日です。ぜひ来て下さいね」

「あ、はい、ありがとうございます」

……あ。


「では、失礼しますね」

…あ。


「はい。また明日ね!」


あ。

あぁぁぁぁぁあああああ!わ・す・れ・て・た(故意的に)


「ねぇ、どういうことかな?」


こちらをにこにこと微笑みながら見つめる美人さん。あれ、ママンいつにもまして肌が艶々よ。とても美し、

「ねーえ。私、聞いてないわよ?」



お手紙ももらったんでしょう?と彼女は手を差し出してにっこにっこ笑う。

私はそれに逆らえるわけもなく10日ほどふところ(買ってもらったリュック)の奥底で温めていた魔法書(ただのプリント)を取り出した。

そうだ。魔の手に捕われてしまったのだ。


「演劇発表会、ね」


なんか目が燃えてる。どったのママン。


「そういえばこの時期だったわよね。で、何の役?」


最近、私に対する母の言葉遣いが子ども向けじゃない気がしてなりません。妹君とはまったく違うのです。まるでシンデ、はいすみません。石の役をやらせていただきます。強かな灰色の自然の精霊でございます。ちょっとはなし盛った。こらそこ笑うな。


「い、石…」


母は固まる。うむ。さっさと帰ろうぜ、私は兄貴のゲームを鑑賞せねばならん。最近のマイブームである。

「石、石、石…」とつぶやく母を急かして妹君の手をとり、さっさと帰宅した。なんかよからぬとをやらかすんじゃないぞ、母よ。



そしてそのままお家に帰り、リビングのドアを開けると。


「おかえり、今日はちょっと遅かったね」

「ち、父上!?」


いつもそれなりに遅い父が出迎えてくれた。ダンディでイケイケな父上がそこいた。

思わずぐわしと足に抱きついてなんで今日は早いのかと聞いてみる。するとわしゃわしゃ頭を撫でながら彼はにこやかに笑うのだ。目尻にしわが出来る。痺れるぜ、パパン。


「先輩が気をきかせてくれてね、久しぶりに早く帰れよってね」


だから一緒に遊ぼうかと魅惑的な誘惑。もう最高ですご馳走様です私は年上が好きです。


しかしながら私には兄貴のゲームが…。

うーん。父ちゃんがはやく帰ってくるなんて稀だ。レアモノだ。だったら優先すべきことはもちろん、


「父ちゃんとあそぶー」


父だろう。童心に戻ってあははうふふしてやる。父ちゃんの上腕二頭筋はすごいよまったくいつ見てもほれぼれだよ!

そんなこんなで妹君とともに私は父と戯れた。


母がよからぬことを企んでいるんじゃないかと疑いつつ保育園に向かう。もういよいよ明後日には発表会である。


この発表会、年長組たちが行うものでありそれ以外の園児たちはみな見学らしい。ふむ。だから妹君から母にはなにも伝わっていなかったのか。


「ねえねえ!」


いつも通りぼーっとしながら過ごしていたら宮崎さんから元気な声がかけられる。なんだなんだ。元気だな。首を傾げて見せるとにこにこ楽しげに笑っていた。耳を貸せとゼスチャーしてくるので耳を宮崎さんの方に向けた。息を吹き掛けられた。


「ぅにゃぁあッ!?」


そして変な声が出る。おい、宮崎なにをする。

毛を逆立てて威嚇。前方に敵を確認した!構え!


「うわぁ!まってまって!」


となにやら今のは冗談のようで話はちゃんとあるらしい。なんだと、この!可愛いからってなんでも許されるわけじゃないんだぞ!


「…え?たいむかぷせる?」


「しーっ!」



先生に聞こえちゃう!と辺りを見回した彼女は人差し指を立てる。可愛いな、おい。


「ドラマでね、見たの!思い出を埋めるんだよ!」


え、思い出うめる?いや意味は合ってる感じするけどちょっとニュアンス的にそれは合ってないような気が。


「おとやとルカくんとあいちゃんも誘った!」


おや、新藤葉月美作まで共犯ですかい。

3人に目をやると劇練習に励んでいた。おい、継母どうした。

「考えとく」と返事をして宮崎さんを持ち場へ付かせた。私もシンデレラの部屋で踞ることにした。


タイムカプセル、ね。




「───…シンデレラ!これもやってちょうだい!」

「はいお母様」



ふわりとスカートを翻し、宮崎さんが迫真の演技でシンデレラに洗濯物を押しつける。うまい。かわいい。それを受け取るシンデレラは第一幕と三幕担当の安藤さん。彼女は床を拭いていた姿勢から健気に立ち上がると洗濯物を受け取った。うまい。かわいい。


私はまだ出番ではない。

ここはまだシンデレラの住む屋敷の廊下なので石はお呼びじゃない。


頭の中にたたき込んだ台本と目の前で繰り広げられる劇を照らし合わせながら私は舞台袖から楽しんでいた。


(…そろそろかな?)


そう思うとネズミさんたちが立ち上がったので私も立ち上がった。

次は舞台暗転、シンデレラの部屋だ。

シンデレラの部屋用のタンス、鏡、箒などを運びつつそそくさと持ち場についた。タンスの隣だ。

そして傍らにはかぼちゃさんが座っている。


にこり瞳でアイコンタクト。こんな舞台裏でも友情は育めるらしい。

と、微笑みつつ、監督のりんご組先生が演技指導に入った。場面ごとに指導が入るらしい。次は第二幕だ。柳さんと葉月くんの出番がある。



「ねぇねぇ、衣装決めた?」

「ん?ああ、衣装買わないとなんだ」

「私、オレンジの可愛い服はあるから緑のスカート買わないとなあ」


そう言って宙を見つめるかぼちゃさん。かわいい。なんだこの生き物、かわいい。


そういや衣装買ってないなあ。

そんなことをぼおっと考えていたらとっくに母上が迎えに来ていた。今日も一日だらだら過ごしたなあ。


「母ちゃん、石さんの衣装どうしよう?」


灰色の服あったっけなあ。


「大丈夫よ、母さんに任せなさい!」


「……え?」


なんかとてつもない嫌な予感が彼女からぷんぷん漂っていた秋の夜。

私はそのきらきらした瞳を避けつつ、ピアノのレッスンを無心で行った。…劇、がんばろ。とか意気込んでいたのに。


「……は、」


私は知った。

人は本当に驚くと声すら出なくなるのだと。いらんこと知ったな。



それはふわりと広がるグレーの波。ゆらりと緩やかなカーブを描く裾。肩出しのシフォンワンピース。袖はぶわりと広がっていてそれもまた、ゆらりゆらりと揺れていた。

裾や肩口はきゅっと純白のリボンが締められていて、なんというか、天使と悪魔の合いの子的な…。

さらさらとした気持ちよい生地で裏も表も肌触りがよい。リバーシブル?


「……え?」



自慢の黒髪もサイドを編みこまれて綺麗にセットされている。

え。なに。今から行くのはピアノの発表会だったっけ?え、いや、劇?何の話だそれは。


「さ、行きましょ」


「……う、うん」


な、なんか変なことになった。

石がこれだけ目立っていいの?いやだめだよ。

母上なんなのこれやばいよどうするよ。


「かわいい!」

あ、ありがとう。

「かわいいね!あ、みつあみしてる!」

あ、編み込みね。母にやってもらったよ。

「私もこういうの欲しいなあ」

貴方のほうが似合うよきっと。


案外何もなかった。

ちょっとどうしようかと思ったよ。褒められて散々持ち上げられて私は有頂天だった。


しかし。

こういうときは大抵、散々持ち上げといて一気に落とされるのだ。油断大敵だ。


「今日は一段と可愛いね」


「お、お前にしては似合ってる。か、可愛いんじゃねーの…」


そ、そこまで!


そこまで私を持ち上げて!

君たちはどうするつもりですかまったくもう!


葉月君の歯が浮くようなセリフは王子様然としたその容姿だとばっちりマッチしている。良い感じだ。

新藤君のツンデレのようなセリフ。語尾が段々小さくなっているところがまたいい。「照れてるんだろ?お前、照れてるんだろお」とか言っていじり倒したい。可愛い。いつみてもこのツンデレっ子は可愛いな。

私が変態なのもいつもどおりでいつもの調子が戻って来たようだ良かった。


「せんせ!たいへん!れーこちゃんがおねつで」

「まあまあまあ、お熱?風邪かしらね」


バタバタと玄関からかけてきた柳さん。柳さんの方に行った先生が柳さんをつれて玄関の方に戻っていった。


「えー、風邪?主役じゃん。どーするのかなー」


「どうするんだろうね」



傍では宮崎さんと美作さんがそんなことを話していた。あまり危機感はない。


いやどうするんだろうね、じゃないよ。なんでそんなのんびりしてんだよ。と思ったが対して気にしないことにした。


そしたら、先生が園児たちに集合をかけている。

みんな駆けて近寄ってくる。なにこれ愛らしい。


「今日はレイコちゃんがおやすみになりました」


その先生の言葉に体育座りをしていた子供たちがブーイングの声をあげる。

おいおい、先生も困っているんだよ。


「先にすみれ組たちの劇をやってもらうことになったのでそれまでここで待ってるように!わかった?」


その言葉には素直に返事が飛んでくる。

中止にはならないようだ。でも今からどうするのだか。安藤さんのセリフは第一幕と三幕なのでそれなりに多い。継母に虐められてるところから魔法をかけられる前までと王子様と踊るところ。私からしてみればかなり少ないようにもおもえるけれど…。



「作戦会議よ!」


頭で色々考えながら慌ただしい先生を見ている私にそんな声がかかった。

宮崎さんだ。こちらも慌ただしいなあ。

宮崎さんに腕を捕まれて強引に連れ出される。連れだされた先にいたのはいつものメンバーである。

宮崎、美作、新藤、葉月。ま た お ま え ら か !

厄介ごとの香りがするメンバーである。出来ればお姉さんを巻き込まないでほしいなあ。


「一大事だよ!」


「だね」


「だな」


「だよね」


上から宮崎美作新藤葉月。まるで台本があるかのような規則正しいセリフ順である。謀ったな。


「ぶっちゃけさぁ」


なんか宮崎さんが最近女子高校生化しているようである。お姉さんはちょっと心配よ。


「セリフ覚えてるんでしょ?」


え、誰が?凄いじゃん。先生に言ってあげなよ~。


「あんただよ!」


「は、え?私?」


最近、ますます言葉遣いが悪く感じますよ、宮崎さん。


▲△▲△▲△▲△▲△


「え?覚えてないです」


「え?でも…」


ちらりと視線を部屋の角の方に向けるとにまにま笑う宮崎さんがいた。あいつ、私を劇という名目で虐めたいんじゃないか?とすら思えてくる自分が怖い。


「あー、10分もあれば覚えれます」


「ほんと!お願いしてもいいかな?」


「まあ、はい」


曖昧な返事を返して私は先生のもとから去った。あんまりこういうことはしたくなかった。

先生の前で目立つことを。前みたいに言われたら挫けてしまいそうよ…。うぅ。けど子供たちが折角練習した劇を成功させてあげないと可哀想だからね。お姉さん一肌脱ぐね!


って言っても。

シンデレラだし。

ストーリー普通だし。

これ、憶測だけで劇できそうだよね、かっこわらい。


笑いごとにしないで真面目に覚えている私の傍らで宮崎さんが「できた?できた?」邪魔してくる。…。


「…大体は」


「じゃあ練習しよ!リハーサルしよ!」


宮崎さんは先生のところまで元気にかけていった。なんか憎めない子だよね。


「──…どうしましょうね」


そんな悩ましい美声が聞こえたのは宮崎さんの後ろ姿を生暖かい瞳で見守っていたときだった。

悩ましい美声はそれは男の庇護欲を煽るような…、「へえー!でもあれだよ!あの子ならなんとか出来るよ!」あの子、といって私を指差す宮崎さん…おい、なんてやつだ。というか何の話だ。


「シンデレラのドレスがないのよね。安藤さんが着てくる予定だったから…」


悩ましげな声はばら組の先生だったようだ。



「…っ?」


つんつん、と袖が何かに引かれて後ろを振り返る。


そこにいたのはふわふわとした髪を揺らす美作さん。くせっけなのかウェーブがかった彼女の髪。今日はそれをふたつにくくり、結われている。


「そのふく、」


「これ?」


彼女の視線は私のふりふりなグレーに向けられている。やたら張り切ったように見えるシフォンワンピース。


「それ、リバーシブル」


「……え?」


私は服も脱ぎました。




「きゃあっ!可愛い!」

「かわい~」

「似合ってる」

「うん、可愛いよ」


「……」


突然の抜擢。

グレーのシフォンワンピースが魔法使い(ママン)によってパールホワイトのワンピースに。


まるでシンデレラである。(※誇張されています)


▲△▲△▲△▲△▲△


「すごかったよ!」


「ありがとう」


次々に告げられるお褒めの言葉に私は礼を返す。

先生からもたくさん褒めてもらった。

ママンがまるですべて分かっていた、と言わんばかりににまにましていた。

でもちょっと。

ちょっとませてる女の子たちに反感を買った、ような気がした───…


***

「次のクリスマス会なんてどう?」

「やっぱりイベントだとそれかなあ」

「どうする?」


わいわいと賑わう中、少女たちは隅にいた。


「だれがやる?」

「みんなでしょ」

「どうする?」

「やっぱり───…」



不穏な空気。

それには少女たち以外だれも気付かなかった。

***


「───…へえ、タイムカプセル」


私はタイムカプセルの件をばら組の先生に話す。いやだって保育園の敷地内に埋めるらしいし相談しなきゃだめでしょ?秘密?いや先生には一声かけるべきです、はい。


「楽しそうね」


「ですねー」


これこそ青春って感じがする。若いなあ。


「いいわよ?」


「え、本当ですか?」


この先生に話し掛けるときは敬語が当たり前になってきている気がする…。


「秘密、よ?」


しかしこんな妖艶な色香を持つ彼女には敬意を払うのが当たり前なのでは、とさえ思った。

細い指を真っ赤でつやつやした唇にあて、先生は片目をつぶった。美人しか出来ない技です。ノックアウトです。


「宮崎さんはなに入れるのー?」

「えへへ秘密ー」


こっちもこっちで可愛すぎてノックアウトである。なんだここは楽園か。


美作さんにも聞いてみたが机に向かいながらストイックな感じで同じ言葉を言われたのでその余韻に浸りながら私はその疑問を胸にしまうことにした。


私はなに入れようかなあ…。


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