明晰夢の先に
扉を開けた先に立つ、見知った男と見知らぬ少女。
二人はどちらもにこにこ笑っている。
「は、え…葛城?」
「学校ぶりだな!隣に引っ越してきたんだよ。よろしくな」
へらりと笑いながらのたまった。
確かに最近引っ越し業者やらのトラックがよく行き来するなとは思っていたものの。
まさか。
「で、こいつが俺の妹。ほら」
「は?妹?え、お前の?」
奴は俺の困惑を華麗にスルーしてくれる。
葛城の隣にいた少女が促されて一歩前に出てきた。
小さくお辞儀をし、俺の方が背が高いのでわずかに見上げるかたちで口を開いた。
「葛城悠理です。よろしくお願いします!」
にこり、と人懐っこく笑った。
飴色の長髪を両サイドで束ね、近くの中学の制服を身に纏い。
髪より若干濃い、栗色の瞳が印象的で。
柄にもなく可愛いな、と思った。
なんというか、あまり葛城には似ていない。
「お前、今失礼なこと考えただろ」
「…んなわけねーだろ」
「どうだかな」
視線がうろつくのを自覚しながら呟く。
葛城…紛らわしいので柘真でいいだろう。妹さんとかぶる。
柘真は暫し半目で睨んできたが、やがて諦めたように嘆息した。
ここで話題転換を試みる。
「そういや、お前はなんでうちの高校の制服着てないんだ?」
「ああ、これな。いやぁ、悠理の分は用意できたけどそこで金尽きそうになってさ。ほら、教科書とかいるだろ?」
なるほど。確かにそれは仕方がない。
制服はまだしも、教科書は必須だろう。
「…ん?お前教科書持って無かったよな?」
「まだ届いてないんだよ。申し込みが遅れたから」
「私のはもう届いてるよ!」
なるほどとまたうなずく。どうやら妹さん優先で手続きをしているようだ。前の学校とは違うから面白い!と妹さんははしゃいでいる。
その後もしばらく話していたが、夕日が沈みかけたあたりで母親から夕飯の完成を告げる声が聞こえた。
それが別れの合図となった。
「んじゃまあ、お隣だからよろしくな!」
「よろしくお願いします!」
二人はそう言って、仲良く隣の家に帰って行った。
玄関の扉を閉めると、夕飯の匂いが鼻腔に届いた。
炎天下。
気がついたら、俺は海辺にいた。
ああ、これは夢だ。唐突に理解する。
確かあの二人が帰ってから夕飯を食べ、満腹感でソファの上で寝てしまったはずだ。
所謂、明晰夢というものだろう。
一体ここは、どこなのだろうか?海にいる、ということしかわからない。
おもむろに視線を動かすと、左隣に親父が座っている。
普段は仕事が忙しくて、顔を合わせないことが多い。
―――――そういえば、ここに誘ったのは親父だっけ?
戻した正面では東京の大学に行ってるはずの姉と、母が談笑しながら波を蹴っていた。
―――――なんだか、前にも家族で海に来てた気がする…。
頬を撫でる潮風が、やけにリアルだった。
これは、本当に夢?
お久しぶりでございます。
…私転校とかしたことないで手続きとかよくわからないので、変なところがあると思います。すいません。