北の森2
移動シーンはこのように割愛されます。
農村ノーザ。
エルミアラーザの北に位置し、穀倉地帯の一つで国民の胃袋を担っている。
特産物は、比較的寒さに強い野菜類が多く、白菜、人参、葱、大根などが多く栽培される。
大根の中に混ざって、てんさいというサトウキビに並ぶ砂糖精製の元となる野菜も栽培されている。
見た目は大根に近く、砂糖大根とも呼ばれている。
そんな広大な畑を背にした村、ノーザの入り口に6人は来ていた。
「って、おい、なんで村の入り口の前なんだ!?
オマエの両親の家なんだから直接移動すればいいんじゃないのか?」
「誰がオマエですかー。
おとーちゃんとおかーちゃんは、かなり捻くれているので行き成りぶしつけに移動した人間なんて逆に送還されてしまいますよー。
・・・・・・運が良ければですけどー。」
レーベンがつっかかるが、ルーシーはきわめていつもどおりに返す。
「まあまあ、それにこれのが都合がいいんじゃないかな。
色々村の人たちに話も聞けるし、ルーシーの実家はもう歩いていける距離なんだしね。」
「その通りです!
それに、もし魔物が近くにきているのなら、その対策もキッチリ行わなければいけません。」
確かに、ルーシーの両親の証言だけでは不十分だし、村に危険があるのならそれは取り払った方が良いに違いない。
依頼とは外れるが、ライトは少し考えた後、うなずきアルナの意見を肯定する。
「・・・・・・ハウル、どうする?」
レイブがアルナの腕の中にいる柴犬のようなヘルハウンドを指差す。
「犬にはリードだろうけど、魔物だしな。
それに、燃やされそうだし、ワイヤーで作るか?」
レーベンの軽い物言いに、レイブはギラリと睨みつける。
しかし、レーベンは特に気にしない様子で、アルナの腕にいるハウルの首を手で測っている。
「いや、紐にしておこう。
ワイヤーなんて使っていて、色々疑われるのも嫌だしね。
それに、こいつがいざというときに自分で動けるようにしておくほうがいい。」
そういうと、どこから出したのか、革で輪を作り、金具を取り付け首輪を作り、紐を通せるように加工して革紐をくくりつける。
「うん、こんなもんかな。
大分前に革細工を教えてもらっていてよかったよ。
ありあわせの道具で作れたしね。」
いや、普通はそんな事はできない。
革だけならともかく、金具はそれなりに成型されてないと難しいものなのだが、彼は少々規格外なところがあり、こういったことを平然とやってのける。
「相変わらずなんでもないように、そういうことするね。
"芸は身を助ける"っていうけど、ライトにかかっては"多芸は無芸"って言葉もむなしくなるよ。」
レーベンの話に最初は皆、納得の顔だったが、後の"多芸は無芸"で首を捻る。
「ああ、色々手を出すと結局一つの道を究める事ができないから、結局は無芸と同じって意味・・・・・・らしいよ、これはおばあちゃんが言っていた。」
レーベンの説明に、やはり微妙な顔をする一同だが、お年寄りの受け売りだしと特に何もいうことなくおさまる。
「ワンワン! ワンワン!!」
ライトが首輪をかける。
ちょっときつすぎたのか、吠えてあばれてアルナの腕から抜け落ちて、村の向こうに走っていく。
「あ、待って!」
「すまない、もっと緩めにしないといけなかったな。
レーベンのおばあさまの言葉は、本当なのかもね。」
アルナとライトが、ハウルを追いかけて村の外れの方へと走っていく。
「あー、ちょっと村との境はあぶないかもー。」
ルーシーが走り去った二人を眺めならが、畑と森の境界線に差し迫ったところで、何かが反応する。
-ピーピーピーピー-
"魔物の反応あり、村人は全速力で逃げて下さい。
今から、幻想魔獣を発動して倒します。
巻き込まれないように、気をつけて下さい。
尚、攻撃をしてきたものは人間だろうと敵とみなしまーす。"
「あー、やっぱりー。
警告を村全体にかけちゃってたねー。
自分の両親ながらー、非常識ー。」
ルーシーは走って近づこうとして転ぶが、背にしょっていた荷物は今度はプカプカと浮いている。
「いつものはいいから、とっととライト達に近づくぞ!
幻想魔獣ってあれだろ、魔術師の使う幻覚魔法のリアルバージョンだよな。」
「・・・・・・ああ、そうだ。
あいつ等は惨い事をするくせに、外傷が無いからな。
剣闘士時代は、色々苦渋を舐めさせられた相手だ。」
レイブの言うとおり、剣闘士の戦いで頻繁に利用されていた魔法だったりする。
怪我は幻覚、しかし痛みは本物、傷みによるショック死にさえ気をつければ何度でも繰り返し残虐ショーを見せる事ができるお手軽モンスターでもあり、実際に魔物を捕まえる手間も省ける。
姿形も、色々加工できることからどれだけ客や剣闘士を騙せるかという賭けも行われていたりしていた。
レイブは転んだルーシーを小脇にかかえて、ライトとアルナの近くに駆け寄る。
既に、幻想魔獣は顕現しており、ライトとアルナとハウルの眼前にいる。
「ライト様、実際に触れなければどうという事は無いはずです。
魔法で倒してしまいましょう!」
「いや、そういうわけにはいかないようだね。」
幻想魔獣は見た目は二足歩行の蜥蜴といった感じなのだが、大きさが大体レイブと同じくらいのようだ。
そして、口を大きく開けたかとおもうと光が貯まり炎の吐息が発せられる。
当然だが、ライトに放たれたわけではなく"ヘルハウンド"のハウルに放たれる。
ハウルはすばやい動きで横に避ける。
「ラ、ライト様、炎の吐息です。
ど、どうしましょう!」
「なるほどね。
生物的なこだわりがないから、あのサイズで炎の吐息なんて出来るのか。
さてと! ルーシー! こいつ何かに重なっていたり、実は実体があるとか炎の吐息は本物とかいうことはないよな?」
ライトが珍しく声を張り上げて未だ小脇にかかえられているルーシーに問う。
「うーん、そうだね大丈夫、ただの空間だよー。
けど、どうするのー?
一筋縄じゃいかないとおもうよー。」
「まあ、ちょっと試してみようとおもってな。
ちょっと準備するから・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・よし、それじゃやるか。」
ライトは何かしら呪文を唱えると、無造作に幻想魔獣に近づく。
炎の吐息がライトにもろに浴びせられて、見た目に体中が焼けて爛れて、炭化していくのが見て取れる。
「ライト様!
今、癒しを」
「ああ、大丈夫大丈夫。
これ、幻覚だから大丈夫。」
そういって、ナイフを一本抜く。
腰に下げている刀でも、予備の短剣でもなく、スローイングナイフと呼ばれるものだ。
それを無造作に投げると、幻想魔獣に大穴が開き消えていく。
「えーとー。
いったいなにしたのー?
おとーちゃんとおかーちゃんの魔法、そんな簡単に力技でいけるはずないんだけどー。」
「ああ、簡単なことだよ。
幻想魔獣ってのは結局幻覚だからね。
痛覚無効&常温保持の魔法をかけていればダメージは無いと思ったんだよ。
ちょっと痛覚無効は触覚がおかしく感じるけど、許容範囲だしね。
後は、想像力強化して、ナイフを昔見た凄腕の槍使いの槍投げをイメージして投げてみたら、まさかの一撃だったよ。」
幻想魔獣が強いとははいっても、結局は幻覚。
幻覚による偽りの感覚を全て遮断し、逆にイメージの強さがダメージになることを見越してスローイングナイフで倒してしまったのだ。
「ほほー、これはこれは。」
「すごーいですね。
ルーシー皆さんを紹介してくださいなー。」
幻想魔獣を倒してる間に、いつの間にか二人の中年夫婦が皆の後ろに現れていた。
昔、何かで読んだイリュージョナリービーストをちょっと変えてみました。
幻覚でも現実に感じられたら死ぬ事もある。
それなら、逆をやれば幻覚での直接攻撃は無効化されるよな~。
そんな捻くれたことを考えてた結果です。




