初回の依頼3
初回の依頼完結です。
廃墟の小民家で、ちょっとしたキャンプ状態で5人は情報を持ちよる。
「こういうのは、修学・・・・・・じゃなくてキャンプをおもいだすな。」
「私も学生時代を思い出します。」
「レーベンもアルナも思い出話は後にして、情報をまとめようか。」
ライトが話をとりまとめ、周辺住民の声をひととおりまとめる。
「・・・・・・え~っとだ、親とかが犬を可愛がりすぎて逆に犬恐怖症にでもなったのか?
なんというか、人となりがいまいちわからないなぁ。
本人の話がなかなかでてこないからね。」
「ああ、あと先々代を直接知る人にも会わなかったな。
時間帯も少々遅かったし、老人とか居てもいいとおもったんだがな。」
「転居してきたひとがー、多いのかもー。
レーベンが洗濯物を指してたんだけどー、この街の衣類のデザインと違うとおもうよー。」
ルーシーの女性目線で、最近の入植者という線が出てくる。
確かに遠くからこの街に来たのなら、老人とかが居ないのも納得だ。
元々の住民は居ないわけではないだろうし、単純に偶然だろう。
余所者同士固まる傾向にあるのもよくあることだ。
「けどまあ"ヘルハウンド"がここにいる原因、きっと領主にあるね。
珍しい犬の中に居たんだろう、そしてその結果がこいつという事だと僕は思うんだ。」
ライトの言うとおり、ヘルハウンドなぞ早々街中に居るものではない。
こいつと指差したライトの指を、子犬はあま噛みしてじゃれている。
「それなら、きっと先代や先々代の悪行を悔いて、冒険者に依頼に来たに違いありません。」
「アルナの言う事も一理あるんだけど、それなら、何故自分等で始末しないかが謎なんだよ。」
有力者なら私兵くらいは持っているだろうし、それらで"犬狩り"でも行えばいい。
第一、既に余り良い印象はもたれていないようだ。
「それはそうと、依頼書みせてもらえるかな?」
「はいー、これですよー。」
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"廃墟の小民家に住み着いた魔物の駆除"
依頼者 マッシュ・ポトフトフ
難易度 易
対象 ヘルハウンド一匹
複数匹居た場合は、追加報酬あり
期間 一週間
報酬 1,000G
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「確かに、依頼主ってこの街の有力者の名前と一致するな。」
レーベンもちらりと依頼書をみて、依頼者の名前を確認する。
「・・・・・・なるほど、これなら"ヘルハウンド"をつれて依頼を果たした事を伝えにいく事にするよ。
何となく、やっている事も見えてきた。
ただ、理由は判らないんだけど。」
「ライト様、何か思いついたのですね。
それでは、私達に教えてください。」
「ああ、それはね・・・・・・。」
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4人は依頼主であるマッシュの屋敷の玄関前に来ていた。
庭は裏手にあるらしく、門の類はなくいきなり玄関となっている。
-コンコン- キィィ-
ドアノッカーを叩く音が響き、暫くしてから軋んだ音をたてて玄関が開く。
「なにか、御用かな?」
「はい、駆除の依頼を行ったので確認して頂く為に報告にきました。」
執事の服装を着た老人はピクリと方眉をうごかし、ライトから依頼書の紙を受け取り確認する。
「判りました、主人を呼んで来ます。
申し訳ありませんが、武装した人間を入れる事は憚られるので、暫くお待ち下さい。」
玄関が閉められ、数分も経たないうちに中からドタバタした音が聞こえてマッシュと思われる人物が出てくる。
精悍な顔付きで強い眼光を湛えた目をしており、有力者というより有段者とでも言った方が通りそうな人物が出てくる。
「待たせてしまったようだな。
本来なら屋敷に入れるべきなのだろうが、少々事情があって入れることは出来ない。
すまないが、そこにいきつけの喫茶店があるので、そこで話を聞かせてくれないか?」
「はい、僕達も畏まった席よりも、普通のお店での話しの方が気が楽ですから。」
6人は近くの喫茶店に入り、6人がけの机に座る。
「コーヒーを皆に頼む。」
かしこまりましたーっとウェイトレスが注文を聞いて下がる。
「さてと、依頼の結果を見せてくれるという事だが証拠を見せてくれるということでいいのかね?」
「ええ、そうです。
流石にここでは衛生的に問題があるので、別のところで仲間が待っています。」
「そうか。
しかし、別に私に直接話を持ってこなくても、冒険者の店に結果を持っていけばそれでいいのではないかね?」
「そうなんですが、貴方に対処の結果を判断してほしくて。
・・・・・・ああ、丁度いま窓の外に駆除の証拠と共に仲間が歩いています。」
ライトの話に思わず外に目を向ける。
そこには、長い目のリードをつけて散歩している大男、レイブの姿があった。
「馬鹿な!
依頼の駆除はなされたのではなかったのか?
あそこに居るのは、確かに住み着いていた奴・・・・・・。」
「はい、廃墟からの駆除なので僕達が持っていけばそれで駆除完了です。
大丈夫、二度とあの廃墟どころかこの区画にも近づけませんので。」
確かに駆除といっても、特定の場所を指定しているので、そこに来させないようにすればいい。
実際に虫の駆除でも根絶やしにするというよりは、追い出して近づかせないように対処する方のが多い。
しかしこれは、流石に屁理屈ではないだろうか。
「なるほどな、つまりはお前等の戦闘要員にするわけか。
・・・・・・・・・・・・まあいいだろう、私も書き方が悪かったし、近づかなくなるのならそれでいいだろう。
報酬はちゃんと出されるようにしておく。
依頼は完了だ! 何、私はあそこから犬コロが居なくなればそれでいいんだ!」
マッシュは最後にとりわけ大きな声でライト達に言い放つ。
「なるほどな、あんた苦労してるな。
ああ、別になんとなくそうおもっただけだ、気にするな。」
マッシュの言葉に、レーベンは的外れな回答を返す。
「ふん、頭は回るようだし、もっとややこしい依頼をお前等にそのうちくれてやる!」
マッシュはコーヒーの代金を叩きつけ、コーヒーが出る前に喫茶店から出て行く。
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「依頼達成おめでとうございます。
報酬をご確認下さい。
後、依頼者の方から追加でアイテムを預かっております。」
依頼達成の報告をすると、受付嬢が紙袋をライト達に渡す。
「なるほどー、ようやくライトさんたちの言う事わかりましたー。」
ルーシーは紙袋の中をのぞいて納得する。
「色々と謎は残っているけど、僕達はわかる範囲でできる事をするだけだよ。」
紙袋の中には一枚の紙片と、薬の入った瓶が入っていた。
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犬系魔物の雄雌両方に効果のある避妊薬だ。
レシピも添えておく。
一週間に一錠飲ませるだけで効果がある。
後は飼い主責任だ、そいつとよろしくやってくれ。
また何かあれば指名で依頼させてもらう。
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つまりは、マッシュの行動は街の事を考えてのことだったようだ。
考えてもみてほしい。
潜在的にヘルハウンドが街中に居る可能性が未来永劫途切れないのだ。
しかも、その原因は自分の親や祖父、その尻拭いに動いて犬嫌いを噂されるようになったのだろう。
新参者が多いのは、おそらく逆に周辺住民が屋敷の犬を怖がって離れたのではないかと推測される。
ライト達が聞いていた先代、先々代の評判も井戸端会議の話は実体験ではなく、噂やら人から聞いた話が伝播していったものが大半だ。
もちろん、真相は誰にもわからない。
唯一ある程度の事がわかるのは、マッシュ本人だけであろう。
何はともあれ、5人の冒険者に新たに一匹の仲間が加わった。
今はレイブの腕の中でスヤスヤと眠っている。
次回は日記回予定です。
有力者の人の事は理由を考えていると悪い人じゃなくなりました。
それもまた、良いものです。