書類
時間って大切だねってこと
レーベンは戦っていた。
この戦いに勝ち負けはあれど、終わりはない。
ここは、『糧』の執務室で、現在レーベンがトップとして豪華とはいえないが丈夫な机の上に書類を積み上げて仕事をしている。
当然ながら、戦っている相手は書類であり『受諾』『保留』『反撃』『その他』と分けている。
あれから二週間ほど経過して、一枚一枚呼んでいる非効率さから、カテゴリ分けで対応することにしたようだ。
どんなややこしい依頼であっても、内容の簡略化を突き詰めていけば単純化することが可能なので、その結果が、4種類の選択なのだろう。
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一段落したのか、レーベンは力をぬいて保留に振り分けた依頼を読みながら眉を寄せていく。
「貴族の案件って難しいんだよな。
第一、何故冒険者ギルドでなくて、この『糧』に依頼してくるんだ?
雑用や伝言ならまだしも、剣の稽古の相手とか、おかしいよな。
しかも、結構高額報酬、前任者なら受けていただろうな・・・・・・。」
"コンコン"
「入れ!」
「失礼します、ライト様が訪問されていますがいかがいたしましょう。」
「ここに通せ、後で飲み物を頼む。」
レーベンは仮にもここのトップなので、来客などは側近などが行うようになっている。
二週間で、伝言の仕事をしている女性も大分なれたようで、ライトを案内すると直ぐにひっこみ飲み物の準備をしているようだ。
本来なら呼び出しの人と、飲み物を用意する人は別々で準備するべきなのだろうが、まだまだ安定には程遠い『糧』では出来る人間ができる事をするようになっている。
「レーベン、久しぶり。
魔法紙、ようやくそれなりの枚数が出来たからもってきたよ。」
ライトがもって来たのは、カガミ装飾店で利用したコピー用に作成された魔法紙だ。
コピーがないこの世界、同じ内容を保持するには、同じ内容のものを一から作成する必要がある。
そういった職もあるが、内容次第では頼めないので、コピーの魔法紙を融通してもらうことにしたのだ。
「スゲー助かる。
貴族様の依頼で、依頼内容を残しておかないと後々とんでもないことになりそうだしな。」
「お茶をお持ちしました」
紅茶とおぼしきものと、お茶菓子が運ばれてくる。
「ああ、助かる」
「ありがとう」
ライトは紅茶を一口含んで喉を湿らせる。
「けどまあ、あの人達も大変みたいですよ。
僕達とは違う方向だけど。」
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「だから、倍速は駄目だ、それなら身体付与・速度のが余程いい!」
「けど効率からいえば、そうは思えないんだけど?」
二人は、何か雑談をしていたようだが、いつの間にか魔法の話になっていったようだ。
実のところ『糧』のトップになってから、レーベンは魔法を毎日のように利用していた。
まずは、腱鞘炎対策の治癒と、筋に継続してダメージを与えていると考えて再生を部分掛け。
これで、何も書けなくなるといった事態は免れた。
次に、倍速を試してみたようだが、結果からいって失敗。
感覚的な問題で、一定作業したというのに時間の経過が半分というのは逆にモチベーションが下がる。
作業効率だけでいうなら一番だろうが、一時間経過していたとおもって30分しか経過していないというのは、やる気をなくすには十分な理由になる。
それなら、身体の動きを早くしたほうが感覚的にはそのままで手仕事が早くなるので、総合的に考えて効率が良いというのがレーベンの言い分だ。
ただ、書き仕事というそれなりに細かい仕事なので、身体付与を使った作業は熟練を要する。
倍速は感覚としては周囲が遅くなるといったものなので作業自体に熟練は必要ない。
ただ、周囲に被害が出ることは多々あることは否定できない。
「けど、ルーシーは平気そうだったけど。」
「あれは、仕事を嫌々やっている感覚なんてないだろう?
俺は、この書類をみるのが本気で嫌になってきているだが。」
どこか納得いかない表情をしているライトを横目に、仕事にもどろうと書類の山の机に戻る。
「ところで、この保留って僕が読んで良い?」
「ん? ああライトなら問題ないだろう。
貴族の微妙に怪しい依頼ってやつだ。
その中の5割は確実に、仕事をあてがった奴は五体満足で帰ってこないだろうよ。」
かといって保留のままにしておくのはまずい。
しかし、依頼料が良いだけに誰かは飛びつく。
飛びついた結果、依頼を受けた人は居なくなり、依頼料のみ『糧』に入る。
・・・・・・といった事が以前は横行していたのだ。
そのため良い方策を打ち出せずにいる。
「ああ、確かに僕もこの人については良い噂を聞かないよ。
こちらの人は、事情通だから、きっと僕とレーベンの事を知っていて依頼してきているんだろうね。
それにしても書き方がまずいよ、これは流石に警戒されるし。」
意外なことにライトから貴族に関しての情報がでてくる。
本来なら意外でもなんでもないのだが、一昔前ならともかく現在の話なんて知る由もないはずだ。
レーベンがいぶかしんでいると、ライトは紙を一枚借りて貴族連中の名前を記述し所々に注意を書き出した。
おそらく倍速をつかっているのだろう。
通常より早く書かれ、インクがすこし散って机の上を汚している。
「うん、できた。
現在の貴族連中で危険な思想や性癖を持つとされている人達の一覧ね。
定期的にきて、また教えるよ。」
レーベンは、紙とライトを見比べて言葉が出てこず、ただ吃驚している状態で固まっている。
「ああ、ちょっと親父に言われて夜会とかに頻繁に出るようになって覚えただけだから。
それじゃ、僕はこれで。」
「あ、ああぁ、ありがとうライト。
スゲー助かった。
しかし、こいつらは『反撃』にいれておくか・・・・・・・」
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数日後『反撃』に入れたはいいものの、具体的な対策の考えがまとまらない状態でいたのだが、使者が来て依頼の件は取り消すことになった事を告げられる。
ただ、依頼そのものは増えてしまい、レーベンの執務室から「パソコン~」といううめき声が日に何ども聞こえてくるようになったとか。
仕事にヘイストを使うと最初考えたときはよかったのですが。
余り時間が経過していないことに愕然とすることや、その逆も、あるからねぇ。




