ニャンニャン
コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「クリスマスが終わって気が抜けました。新年まであと五日六日ありますが、今年はもう頑張らなくていいですよね」
「だからってぐうたらするな。実家帰る前に大掃除しないと」
「あーダメです。二日酔いで頭痛くて動けません」
「そんなに長引くわけないだろ。一日以上経ってるじゃないか」
「なんか気分も悪いですし、ひょっとしてつわり……?」
「そんなわけあるかバカ」
「でも二日酔いって、二日間酔うから二日酔いなんじゃないですか?」
「そんな悠長な解釈してるやつ初めて見た。二日目も酔ったような状態だから二日酔い。アルコールのせいじゃなくて、アルコールが分解されてできるアセトアルデヒドのせいらしいよ」
「じゃあやっぱり下手に動いて汗かかないほうがいいですね」
「汗とアルデヒドじゃない」
「そういえば二日酔いにはしじみの味噌汁がいいっていいますね。晩御飯にお願いします」
「しじみなんて買って来なきゃないよ」
「じゃあ買いに行きましょう」
「掃除は?」
「かまへんかまへん」
「かまうわ。買い物行けるなら掃除だってできるだろ」
「しじみを食べたいという欲望があるからこそ動けるんです。掃除にしたって、外発的動機付けができれば可能です」
「じゃあしじみの味噌汁作ってあげるから掃除して」
「しじみの味噌汁程度で動くような安い女と思わないでください」
「燃費悪い女だなぁ。何なら動いてくれるの?」
「最高報酬としてあなたとの性行為一回を1ニャンニャンとしますと」
「やめろその最低な規格化」
「しじみの味噌汁は0.2ニャンニャン」
「しじみわりと高い! 五食分って!」
「ノンノン、これは今のタイミングでの数値です。一回食べれば0.01ニャンニャンくらいまで下がります。ニャンニャン経済に線形的な計算は通用しませんよ」
「無駄に複雑なシステムだな。で、掃除には何ナンニャ……何ニャンニャン必要なんだ?」
「0.5ニャンニャンですかね。どうします? 1ニャンニャンあれば明日の分も達成できますよ?」
「……わかった。じゃあ大掃除は全部僕がやろう。その代わり君に、0.5ニャンニャン貸しね」
「え? あれ……? いやそれはちょっとダメですね。えーと、えーと、くっ、こんなときに二日酔いで頭が働きません……そうです! 今夜にでも私から1ニャンニャン持ちかければ」
「残念ながら僕にとって掃除は50ニャンニャン以上の価値があるんだ。それを大負けに負けてやってるんだから感謝してくれ」
「な、なんですと!? そんな価値をつけられたらニャンニャンが大幅に下落してしまいます……! だったら私も掃除の価値を0.01ニャンニャンにして貸しを少なく」
「今夜はしじみの味噌汁にしようか。掃除頑張ろうね」
「ぐぬぅ……このままでは済ませませんよ。ニャンニャン経済を徹底的に見直し抜本的改革を……」
「その努力をもっと他のところに使おうよ」
日は山に隠れ、星々が輝き出しました。
月が今日を急かしていますが、二人の一日はまだ少しだけ続きます。




