人類滅亡
コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「ごちそうさま……」
「あれ、どうしたの? なんか元気ないね」
「ちょっと食欲がないんです」
「夕飯残さず食べ終えてからじゃ何の説得力もないけど……風邪でもひいた?」
「そういうわけじゃありません。今日で世界が滅亡だと思うと悲しくて」
「心配した僕がバカだった。え、もしかしてマヤの予言信じてるの? さっきまで別にそんな素振りなかったのに」
「たった今思い出しました。そういえば今日世界滅亡じゃーんって」
「なんだその見たかったテレビ番組を放送直前で思い出した小学生みたいなテンション」
「どうしましょう。このアパートじゃ巨大隕石が落ちてきたら耐えられません」
「どのアパートでも無理だから。そもそも巨大隕石が落ちてくるんだっけ? マヤの予言って」
「原因は知りません。重要なのは今日世界が終わるってことですよ」
「なるほど。君みたいな人種が大騒ぎしてるのか」
「今のうちに銀行から貯金を全額おろして、今日は美味しいものでも食べにいきましょう! 高いお酒を飲んで高いホテルに泊まりましょう!」
「それで明日が普通に始まったら後悔じゃ済まないと思う。だいたい今日はもうすぐ終わるぞ」
「日本時間じゃないでしょう。マヤは今のメキシコ辺りですから、向こうはまだ朝。ここからが本当の地獄です……」
「本当に滅亡するってわかってるならもっと慌ててるだろうけど、信憑性のない情報でよくそこまで騒げるね」
「騒ぐのが目的ですから」
「ぶっちゃけるな」
「でも本当に明日、世界が終わるとしたらどうします?」
「特に何もしないよ。実家に帰ってる暇は無さそうだから、ここで君と過ごすんじゃない?」
「繋がりながらですか」
「何かに繋がる予定はない」
「でもそれじゃ童貞のまま死ぬことに」
「僕がそうだと決めつけるな」
「私は処女のまま死ぬなんて嫌です。処女のまま死ぬなんて……」
「なんで繰り返した」
「世界が滅亡するというていで、今夜どうです?」
「どうですじゃないよ。なんやかんやで何も起こらないから安心しろ」
「ならいっそ私が滅ぼしてあげましょう」
「救えないのは君の頭だったか」
日は山に隠れ、星々が輝き出しました。
月が今日を急かしていますが、二人の一日はまだ少しだけ続きます。




