オムレツ
コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「昨日のお鍋はなかなか美味でした」
「少し味が濃かったけどね。醤油入れすぎなんだよ」
「もしあなたの実家で台所に立つことがあっても、これで大丈夫ですね」
「食材煮るだけの料理できてもなぁ。今日は少し難易度上げて、オムレツを作ってみよう」
「フライパン使う料理なんて人生で初めてです」
「……頭痛くなってきた。まずは卵割ろうか。Lサイズを4つね」
「卵割ったらひよこさんが死んじゃうじゃないですかあ」
「女子力発揮しなくていいから早く割れ」
「力加減が難しいんですよね、これ。死ねっ! 死ねっ!」
「人道を外れろとまでは言ってない。力み過ぎだって。適当なもののカドに軽く当てればヒビ入るよ」
「あ、ホントですね。上手くいきました」
「卵割るのに水道の蛇口使うやつ初めてみた。別にいいけどなぜそこを選んだのか凄く気になる」
「かき混ぜたらいよいよフライパンに投入ですか」
「その前に、今回はプレーンオムレツじゃなくて具入りのオムレツにするから、ひき肉と刻んだ玉ねぎを炒める」
「玉ねぎのみじん切りは苦手です」
「前にも言ってたっけ」
「しかしこんなこともあろうかと、対玉ねぎ専用必殺技を考えておきました」
「へえ、どんなの?」
「目隠し切り」
「バカな真似やめろ。それに玉ねぎの成分って鼻から入ってくるから意味ないぞ。玉ねぎのみじん切りは端っこを少し残して切って、そのあと90度回転させて切るといい」
「おお、確かにこれならすぐ切れます」
「それじゃ、フライパンに少しだけ油をしいて、熱したら玉ねぎとひき肉投入ね」
「グアアッ! 油が腕にぃ!」
「ダメージ受けてないでかき混ぜろ」
「炒まりました」
「その日本語は正しいのか気になるけど、一旦皿に取って次はいよいよ卵を焼くよ。最初はゆっくり混ぜて、ある程度焼きかたまってきたら全体に広げて具をのせて包む」
「これで後はひっくり返すわけですか」
「下手なことしなくていいからね。転がせば大丈夫だから」
「いえ、一度あの投げてキャッチするのやってみたいんです。ほりゃ! あ」
「いらんことするな! 卵が裂けただろうが!」
「でもひっくり返りましたよ。お皿に移して、ケチャップであなたの顔でも描いておきますか」
「グロッ。僕の顔破れて中から肉飛び出してるんだけど」
「あべしと書けば完成です」
「予定調和を装うんじゃない」
日は山に隠れ、星々が輝き出しました。
月が今日を急かしていますが、二人の一日はまだ少しだけ続きます。




