土手縛り
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「だいぶ涼しくなってきましたね」
「もう秋だからね」
「ふと思ったんですけど、この会話って冬も続くんですか?」
「あー、言いたいことはなんとなくわかるよ」
「雪が降ってる中でだべってるのって、結構キツイと思うんです」
「風邪ひきそうだよね。冬はコタツで暖まりながら喋る感じになるんじゃない?」
「そういえば雨も降ってないです」
「気づいてはいけないことに気づいてしまったね。細かいことは気にしないほうがいいんじゃないかな」
「気になり始めると止まりません。もしかしたら私たち、このままずっと土手縛りなのでは?」
「土手縛りってなんだ」
「明日も明後日も明明後日も、クリスマスも大晦日も春も夏も秋も冬も、一日の終わりには必ず土手にいなければならないんです」
「本当にそうだとしたら軽い呪いだね」
「そんなの嫌です! 何が悲しくてこんな若いうちから毎日時間を削って夕暮れの土手で黄昏なきゃならないんですか! しかもこんな朴念仁と一緒に!」
「うん最後のはちょっと酷いんじゃないかな。まあほら、こういう時間だって悪くないよ。というかまだ連載始まって一週間なのに弱音吐かないでよ」
「連載とか言わないでください」
「え、どの口が言うの? もう僕メタネタは毎日使うものだと思ってたんだけど」
「正直、読んでて『この作品〜』とか『作者が〜』とか出てくるとウンザリします」
「お、おう」
「とにかく、明日は土手から離れましょう。ここらへんで少しテコ入れしたほうが読者も飽きませんし」
「……そうだね、もう何も言わないよ。で、どこ行くの?」
「TDLへ」
「うん、いろいろダメだね。僕はチキンレースとかしたくないから。あといきなり雰囲気変えすぎだから」
「隣町の土手へ」
「いやそこまで遠慮する必要もない。それってただ川を下っただけじゃないか」
「じゃあ三年後くらいの未来へ」
「いきなりのSF展開ってなんでもありか。行ってどうするんだ」
「一人で土手に座って黄昏ている私を見ます」
「何があったんだ三年以内に。僕死んだの?」
「そうなっていないといいですね……」
「なんで知った風な感じなんだよ。え、ホントに死ぬの? コメディの最終回間際によくある鬱展開になるの?」
「それを確かめに行くんです」
「わかった。でも戻って来れるんだよね?」
「それを確かめに行くんです」
「それは確かめてからじゃないとダメだろ」
一人が腰を上げると、もう一人も立ち上がります。
そうしてどちらからともなく手を繋ぎ、今日に背を向けて、去っていきました。