もういくつ寝ると
コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「もういくつ寝るとお正月ですね」
「クリスマスもまだなのにその話題出して来るの?」
「ネタがないんです」
「いや、そんなことぶっちゃける必要もないんだけど……うん、ごめん」
「お正月は実家に帰るんですか?」
「たまには顔見せないとね。君は?」
「私はこないだ帰りましたからねぇ。帰ってきてもいいとは言われてますが、お金払ってまで帰りたくないです」
「じゃ、ここに残るってことか。僕はいないけど、ちゃんとご飯食べて掃除とかするんだぞ?」
「それなんですが、私もあなたの実家にご挨拶に伺ってよろしいでしょうか?」
「は?」
「あなたはもう私の両親に挨拶したでしょう? なのに私がまだというのも変な話です」
「でもそういうのってフツー正月に行く?」
「だから彼女連れていっていいかって、電話でもメールでもいいので訊いてみてください。なんなら年賀状でもいいです」
「間に合わんわ。わかったよ、確かに事前に連絡しとけば問題ないな、きっと。電話してみる」
「楽しみですねー。あなたのご両親はいったいどんな方なんでしょう」
「一般的な兼業農家のおっさんとおばさんだよ」
「ということは、下半身がコンバインとコンバインしてたりするんですか?」
「してないよ。どんなイメージだよ君の中の一般的な農家。それにうちそんな大規模農家じゃないからさ」
「私のことちゃんと紹介してくださいね。料理が上手で気が利いてよく尽くしてくれると」
「誰? そんなやつどこにも見当たらないよ」
「ちょっとくらい盛ってもいいじゃないですか」
「盛るどころか純然たる虚偽申告だそれは。料理できて気が利くとか言って実家にいる間一度も手伝わなかったら不自然だろ。こいつ全然気が利かないじゃないかって」
「が、頑張って手伝いますよ」
「僕んちで劇物作ったり異臭騒ぎ起こしたりするのはやめてくれ。うーん、でも確かに何も取り柄ない彼女連れてくのはまずいかもな」
「料理できるようになれと? 女性は台所に立たねばならないとか、そういう考えのご家庭なんですか?」
「いや、うち共働きだから両親どっちも家事できるんだよ」
「う……それはよくできたお家で……」
「今の君がどういう印象持たれるかはわからないけど、最低限の家事はできたほうがいいんじゃない?」
「あ、私お正月は実家に帰らないと」
「もうさっき電話しちゃったからバックレは無しだよ。今日から花嫁修行だね」
「私たちに結婚なんてまだ早いです」
「君の信念の薄っぺらさにはたまに本気で驚かされる」
日は山に隠れ、星々が輝き出しました。
月が今日を急かしていますが、二人の一日はまだ少しだけ続きます。




