表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/2024

年賀状

 コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。

 一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。




「おや、手紙出すなんて珍しいですね。何の懸賞に応募するんですか?」


「懸賞じゃない。年賀状だよ年賀状」


「あー、そういえばそんな文化もありましたね」


「君の中では既に過去の遺物なのか。お世話になった先生とか、学生時代の友達とかに出さないの?」


「去年出しませんでしたし、一通も来ませんでしたからね。仲の良かった友達とはメールでやり取りしてます」


「わざわざ年賀状書くのも面倒だから、最近はそういう人も多いよね」


「あなたはパソコンで作ったりしないんですか?」


「年賀状ソフトは高いからね。ハガキ裏はワードで編集しようと思ってるけど、宛名は手書きだよ」


「裏側はもう完成してるんですか?」


「うん、ほら」


「干支の蛇に賀正……って、味気ないですね。これならコンビニとかで印刷済みのハガキ買ってきたほうがマシですよ」


「うっさい。自分で作るのが大事なの」


「私とのツーショット写真とか入れないんですか? それで横に『僕たち結婚します』って」


「年賀状書いてるんだよ僕は。それに結婚とかまだ予定すらないだろ」


「じゃあ『いずれ結婚するでしょう』と」


「何の予言? そんなこと言っといてしなかったらどうするんだ」


「だったら今の進行度を書きましょう。『私たちBまでいきました』」


「正月からなんで他人を悶々とした気分にさせなきゃならないんだよ! 面白いアイデアなら採用してもいいけどそういうのはナシ!」


「面白いアイデアですか……。では長期計画になりますが、一年ごとに二人がどんどん仲睦まじくなっていく年賀状などどうでしょう?」


「ああ、それは面白いかもね。後から見返してほんわかした気持ちになれるかも。でもどうやって仲の良さなんて表現するの?」


「まず今回は二人で並んで、かつ微妙な距離感を演出して撮ります」


「演出するのか。まあいいけど」


「次の年は二人で手を繋いで並んでる写真です」


「なるほどね。次の年は?」


「二人で抱き合っている写真を」


「なんか一気にバカップルっぽくなったな。そんなことしてて、ある年突然僕一人だけとかになったら目も当てられない……」


「だからそういうことがないように、毎年少しずつ仲良くなるんです。次は二人でキスしている写真」


「完全にバカップルだ。そしてこの後の展開が読めた」


「次は全裸の二人が抱き合っている写真」


「……ああ」


「次はあなたの(U)が私の」


「もういいよ! 下ネタ出さなきゃ死ぬ病気なのか君は!」


「えー、まだ続きがあるのに」


「全部集めるのに何年掛かるんだ。っていうかそれ以上どう進もうって言うの?」


「より愛が深くなければ不可能なプレイにシフトします。ちなみにここからは会員登録が必要になります」


「金取ろうとするな。もはや仲が良いってレベルじゃなくなってるぞ」


「でも送られるほうは毎年楽しみにしてるでしょうし、仲良くなるのを止めるわけには」


「そんなのを楽しみにする人間は僕の友人にいないと信じたい。なんかもう性に堕落していく様を見させられてるみたいだよ。最後はどうなるんだ」


「最終的にはどちらかがどちらかを捕食します」


「愛が歪みすぎだ」




 日は山に隠れ、星々が輝き出しました。

 月が今日を急かしていますが、二人の一日はまだ少しだけ続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ