選挙
コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「なんだか今日はいつにも増して外がやかましいですね」
「選挙カー多いね。明日は選挙の投票日だから頑張ってるのか」
「なんでこのディジタル全盛時代にあんなアナログな真似して安眠を妨げようとするんですかね? せっかくネットという便利な代物があるというのに」
「選挙前はインターネットを使った活動が禁止なんだっけ、確か。音声だけならいいらしいけど」
「それも変な話です。自分の政策を説明するにはもってこいだと思うんですが」
「許可したら許可したで、一番パフォーマンスの上手い人が有利になりそうな気がするぞ?」
「今と同じですよそれ。だいたい選挙前だけ必死になられても困ります。受験前だけ必死に勉強するのと同じですよ。終わったら気が抜けたように勉強しなくなって合コンや飲み会に明け暮れるんでしょう?」
「何の話だ」
「政治家の本番は選挙後って話です。投票とか面倒ですねー。あなた代わりに私の分も出してきてください」
「無理だから。僕らの一票が国の行く末を担ってるのに、そんなことでどうする」
「担ってるのは政治家と官僚です。コロコロ意見を変えられるようなシステムが続いてるうちは、私たちの一票が政治に影響することはありません」
「うわぁニヒリスト。じゃあ君は選挙行かないの?」
「行きたくないです。私が投票したいのは政治家や政党じゃなくて政策です。ぶっちゃけ人間が交代する必要ありますか?」
「政治システム自体否定する気か」
「今はネットがあるんですから、政策ごとに投票するのって無理じゃないと思うんです」
「別に投票行くの大変だから政治家がいるわけじゃないだろ。みんなが政治に詳しくなるなんて無理だから、政治家に代理してもらってるんじゃないか」
「じゃあもう全部政治屋さんに任せますよ。それで国が傾いたら海外へ逃亡します。私、英語できるので問題ありません」
「……うん、君がそういう生き方をするなら止めないよ僕は。一緒にもいかないけど」
「え、それは困ります。通訳は私がなんとかするので一緒に逃げましょうよ」
「そうは言ってもこっちに家族がいるし」
「じゃあ家族ごと逃げましょう」
「親戚とか友達もみんな連れていきたがるぞきっと」
「じゃあその人たちも一緒に」
「その人たちの親戚や友人も連れてかなきゃな」
「じゃあ……その人たちも」
「その人たちの親戚や友人も連れて行かなきゃな」
「……だったらもういっそ国ごと!」
「自分の意見が破綻してることにそろそろ気づけ」
日は山に隠れ、星々が輝き出しました。
月が今日を急かしていますが、二人の一日はまだ少しだけ続きます。




