趣味探し
コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「趣味を見つけてみようということで、いろいろ探してみました」
「何かやってみたいことあった?」
「いろいろあって悩みますね。どれも楽しそうなので」
「お金がかからないとか、一人でやっても楽しいとかの条件付きで絞りこんでみたら?」
「なるほど。ではサーフィンなどは」
「今何月だと思ってるんだ」
「近くの温水プールでなら」
「迷惑過ぎる。波なんてないし。ウィンタースポーツなら時期的にも合ってるんじゃない?」
「あんな傾斜を滑り降りるだけの行為の何が楽しいんですか」
「スピード出す系のスポーツ全否定する気か。楽しいよ。風になるんだよ」
「もっとゆっくりまったりできる趣味がいいです」
「NHK教育テレビにおける五分アニメの主人公みたいなことを……。じゃあ音楽鑑賞とか映画鑑賞?」
「それいつもと変わんないですよ」
「もっと身を入れてやればいいんだよ。単なる暇潰しと趣味は別物だろ」
「じゃあもっと無理です。娯楽は娯楽のままにしておきたいので。気づいたんですけど、私が趣味に求めてるのは『ストレス発散』というより『気分転換』なのかなと」
「その二つの違いが僕にはわからない。じゃあジグソーパズルなんかは?」
「時間を無駄にしてるようにしか思えません」
「あれは完成したときの達成感を味わうんだよ。ヨガとかは? 家でもできるし」
「身体固いので無理です」
「柔らかくするためにやるもんだろうが。お、アクアリウムなんて楽しそうじゃない?」
「生き物はすぐ死にます。飼って一週間くらいで」
「それは間違いなく君が殺してる」
「世話とか面倒ですし」
「あー、それはわかる気がする。僕も君の世話するのめっちゃ大変だもん」
「お世話さまです」
「否定しろよ。このまま永遠に寄りかかり続けるつもりか」
「他にはオススメあります?」
「話を逸らすな。いつの間にか僕が探してるし……。じゃあ野球とかサッカーとか、スポーツ観戦は?」
「他人の応援に時間使いたくないです」
「最近流行りの一人カラオケ」
「歌下手なので」
「盆栽」
「年寄り臭っ」
「切手集め」
「いまどきですか?」
「小説執筆」
「メタ過ぎます。実はこの作品は私が書いていたとかいうオチやめてくださいね。私こんなに文章力低くないので」
「文句ばっかか。どれも楽しそうとか言ってたのはどこのどいつだよ。それとも僕のチョイスそんなに悪い?」
「というか、あなたに紹介されると全部つまらなそうに見えてきます」
「センスどころか存在を否定してくるのかよ!」
日は山に隠れ、星々が輝き出しました。
月が今日を急かしていますが、二人の一日はまだ少しだけ続きます。




