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停電

 コタツの中で足を温め、窓の向こうの曇り空と街の灯りを見つめながら。

 一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。




「さっきから雷が酷いです」


「大雪の前触れかもね。天気予報でも積もるって言ってたし」


「怖いのでそっちに行ってもいいですか?」


「狭いからダメ。家の中にいて怖いわけないだろ」


「音と光でびっくりするんですよ。ちょっとは女の子を安心させようとか思わないんですかこの甲斐性なし」


「そこまで言う? そんなに怖いなら耳栓して目閉じてれば……うおっ!」


「きゃっ! 突然明かり消して何する気ですか!」


「いやなんもしてないから。ブレーカー落ちたかな? ちょっと見てくる」


「今のセリフ、ちょっと死亡フラグっぽいですね」


「縁起でもないことを……。うーん、落ちてない」


「向かいのアパートも全部電気消えてるみたいですよ」


「じゃあ停電か。困ったな」


「とりあえず蝋燭つけましょう」


「普通に懐中電灯探せよ、蝋燭とかないから。なんでちょっと嬉しそうなんだ」


「非常事態ってワクワクするじゃないですか。蝋燭なら、こんなこともあろうかとSMプレイ用に買ったやつがあります」


「全然こんなことは想定してなかっただろそれ。僕に何させる気だったんだ」


「懐中電灯より暖かいのでこっちを使いましょう」


「スルーか。火事になるからダメだよ。空気も乾燥してるし」


「そんなこと言ってる内にだんだん寒くなってきました」


「仕方ないね。ファンヒーターもエアコンもコタツもつけられないから。こうなると電気のありがたさがよくわかる」


「こんなことなら囲炉裏付きのアパートにすれば」


「ないわそんなもん」


「こんなことなら原子炉付きのアパートにすれば」


「もっとないよ。時代の風に音速で逆らう気か」


「夕飯はどうします?」


「暗くならないうちに料理すればなんとか。いつ復旧するかわからないし、本格的に冷え込まない内に風呂入ってすぐに寝よう」


「あの、今日は一緒に寝てくれませんか? 寒いので」


「えー? 一人でも十分暖かいだろ」


「そんなこと言って、風邪ひいたらどうするんですか。別に変なこととかしませんから、たぶん」


「確約しろ。闇に乗じて既成事実作ろうとしてるようにしか思えない」


「考えてみてください。暗闇の中で暖房もつけられず、頼れる熱源は互いの体だけ。この状況で抱き合わない男女がいますか? このさい服を脱いで人肌で暖めあいましょう」


「アホか。遭難してるわけじゃあるまいし」


「人生という遠大なる山で遭難しているでしょう?」


「してないしうまくないし関係ないだろ」


「そうなんですよ。なんつって」


「頼むからこれ以上寒くしないで……」




 日は山に隠れ、星々が輝き出しました。

 月が今日を急かしていますが、二人の一日はまだ少しだけ続きます。

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