すれ違い
「『今日は遅くなるから先にご飯を食べてお風呂に入って寝ててくれ』……」
「あの人はブラック企業にでも勤めてるんですか」
「では疲れて帰ってくる彼に、何か癒しになるサプライズを用意しておくとしますか」
「鍋はこの前やってしまいましたからね。不評でしたし。今日は私が腕によりをかけてレトルトカレーを作るとしましょう。さも私が作ったように見せかければ彼の評価もうなぎ登りです」
「んー、レトルトカレーないですね……仕方ありません。ここはカップ麺で」
「さて、お風呂に入浴剤でもと思いましたが、入浴剤もあいにく無いときました。仕方ないですね。ここもカップ麺で」
「次はベッドです。湯タンポでも入れておいてあげようかと思いましたが、ここは敢えて私が湯タンポ代わりになりましょう」
「……オスの匂いがします。臭くはないですが、メスとして刺激されてしまいます」
「でもこれで彼の疲れも吹き飛びますね。それではおやすみなさい」
「ただいま、と。さすがにもう寝てるかな。夕飯は……カップ麺ね。まあ下手に料理されるより数倍マシだな。いただきます」
「ごちそうさまでした。お腹膨れたし、風呂に行くか」
「――なんで浴槽にラーメンが。なんだ? ここで何が起きた? どういうメッセージだ?」
「とりあえず、犯人だけはわかってるからそれ相応の罰を与えないと。明日は飯抜きだな。食い物を粗末にするやつは一度飢餓を味わえばいい」
「で、寝ようと思ったら僕の寝床が占領されている。なんだこいつ」
「おい、自分のベッドで寝ろ。おいってば」
「……やめてください……なんでも言うことききますから……それだけは……らめぇ……」
「どんな夢見てるんだ」
「空いてる方で寝るか、仕方ない」
「――いい匂いがして寝られない。疲労が蓄積していく」




