不気味の谷
コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「このドラマ前に見たことあります。つまらないのでチャンネル変えていいですか?」
「僕は見たことない。ジャンケンで負けたんだから、大人しく隣で見てるかゲームでもしてて」
「これからあの男の人が殺されたふりをして暗躍しますよ。ちなみに最後、主人公死にます」
「……チャンネル変えていいよ」
「あ、ロボット特集やってます。こういうの見てるとわくわくしますよね。科学が進歩してるのが分かるようで」
「産総研のHRPか。確かに技術の粋が集まってるって感じがするね」
「ついこの前までアシモが歩いたとか言ってたのに、今は人間そっくりで顔も可愛い感じ」
「うーん、確かに外見は人間に近づいてるけど、できることはアシモの頃とあんまり変わってない気がする」
「うわー冷めた意見ですね。あなた自身はアシモの頃からどれだけ進歩したと」
「なんで僕が引き合いに出されるんだ。だって、やっぱりロボットって言ったら人工知能でしょ? そういう面での進歩はしてないなって意味だよ。……んー」
「どうしたんです? 私とテレビを交互に見て」
「いや、このロボットってどことなく君と似てる気がする」
「は? 全然似てないじゃないですか。私もっと目元パッチリですし、口は小さいですし。なによりこんな老け顔じゃありません」
「さっき可愛いって言ってただろうが。どんだけ自分のビジュアルに自信あるんだ」
「ロボットにしてはという意味です。そういうあなたは先行者に似てますよね」
「似てないよ! あれに似てるってどんな人間だ」
「でもこうして見ると、やっぱり人間らしさには欠けますね」
「不気味の谷現象ってやつかな。越えられるのはいつだろうね」
「そもそも何が原因なんでしょう? どこかに不自然さがあるんですけど、どこかわかりません」
「案外気のせいなのかもね。これはロボットだって先入観があるから不気味に感じるのかも」
「世間でイケメンだとか美少女だとか言われている人を見たとき、欠点が際立って見えるのと同じ感じですか」
「全然違う」
「どんなに立派な人物や親しい人物でも、カルト教団の信者だと知った途端不気味に見える現象と同じですか」
「確かに近いかもしれないけど危険なネタはやめようか」
日は山に隠れ、星々が輝き出しました。
月が今日を急かしていますが、二人の一日はまだ少しだけ続きます。




