賞味期限
コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「今日の晩御飯はツナマヨにしましょう。無性に食べたくなりました」
「たまには手抜きでもいいか。じゃ、ツナ取って」
「はーい。あ、この缶詰、賞味期限切れてます」
「それは多分、昔実家から送ってもらったやつだ。どのくらい前?」
「えーっと、だいたい七百七十七万秒」
「なんで秒単位なんだ。何ヵ月前?」
「三ヶ月です」
「オーケー、そのくらいなら許容範囲。缶詰なんて開けてみて匂わなければ問題ないよ」
「そんなものですか。食べ物の賞味期限って、切れた後いつまで大丈夫なんですかね」
「消『費』期限なら切れた時点でダメなんだろうけど、賞味期限だと物によるよね。卵とか牛乳は一週間もしたらヤバい気がする」
「人にもよりますよね。一週間くらい大丈夫って人もいれば、一日越えたら使えない人もいますし。生鮮食品に限れば私は後者です」
「潔癖だな。でも君の場合は賞味期限切れてようが切れてまいが関係ないだろ。どうせ食べられなくなるし」
「そう言いつつも、ちゃんと食べてくれるあなたが好きですよ」
「もったいないから。別に君が作ったからだとかそういうのはない」
「ツンデレですね」
「デレてない」
「ところで、あなたの賞味期限はあと五年ほどですかね」
「ところでじゃないよ。いきなり何を言い出す。そして地味に短くてリアル」
「まあ何年過ぎても食べてあげますから、安心してください」
「良いこと言ってる風だけど最低だ。そういう君の賞味期限はあと何年?」
「今日です」
「短っ! え、それでいいの?」
「毎日劣化する一方ですよ。だから早く覚悟を決めてください。まあ腐っても鯛という言葉もありますが」
「それはただの腐った鯛じゃないかと前々から思ってる」
「腐っても美少女、と言い換えればあら不思議」
「僕はゾンビ趣味ないから」
「でも例えばですよ? 私が死んで、お墓から甦って、あなたに性行為を迫れば」
「いつもの君じゃないか」
日は山に隠れ、星々が輝き出しました。
月が今日を急かしていますが、二人の一日はまだ少しだけ続きます。




