とびだせ
コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「ここのところ朝食をとるのが億劫です」
「早起きしないからだろ。ちゃんと食べないと一日乗りきれないぞ」
「それはわかってるんですけど、無理して食べて気分が悪くなってたら本末転倒だと思うんですよね」
「だから早起きしろと」
「無理して起きて昼間眠くなってたら、本末転倒だと思うんですよね」
「君はいつも昼寝してるじゃんか」
「それとこれとは話が別です」
「いや同一直線上だろ。もっと早く寝ればいいんだよ。昨日だって寝たの零時過ぎとかだったんじゃないか?」
「それは……あなたが寝かせてくれないから」
「僕は十時に寝た。あと寝かせてくれなかったのは僕じゃなくてゲームだろ」
「楽しいですよ、どうぶつの森。一緒にやりませんか?」
「僕はあんまり、目的のないスローライフ系のゲーム好きじゃないから……」
「それを言ったらあなたの人生を否定しちゃうじゃないですか」
「君に僕の何が分かる」
「この作品も目的のないスローライフ系――」
「やめてくんない? 自分を卑下するとかよくないよ」
「卑下したのはあなたです」
「……わかった。僕が悪かった。今度機会があったらやってみる」
「たぶんハマりますよ。かくいう私もこの前まであまり興味なかったんです」
「そうなんだ」
「あなたにしか興味ありませんでした」
「その言い方だと僕がゲームに負けたみたい」
「実際あなたより面白いです」
「ジャンルの違うもの同士を比べるのはよくないと思うよ、うん」
「最初タイトルを聞いたときは、どうぶつの木、どうぶつの林、どうぶつの森というふうに続いてきてるんだと思ってました」
「それはさすがに嘘だろ。っていうか、どうぶつの木から始まったとすると恐ろしいことになってる気がする。グリム童話的な」
「次回作はどうぶつの林林、次々回作はどうぶつの森林」
「なんて嫌なナンバリング。どんどんスローライフから離れてく」
「どうぶつの森フロンティア」
「それもう開拓系のゲームだよね。森林伐採とか焼き畑とかする感じの」
「飛行機の墜落により鬱蒼と生い茂る森に迷いこんでしまった主人公。襲い来る猛獣たちから身を守り、無事暖かい我が家へ帰還できるのか――!? 最新作『脱け出せ! どうぶつのジャングル』」
「別ゲー」
日は山に隠れ、星々が輝き出しました。
月が今日を急かしていますが、二人の一日はまだ少しだけ続きます。




