深夜
「……最近遅くないですか?」
「ごめん。また夕飯待っててくれたの?」
「今日はもう食べちゃいましたよ、特売品のエビフライ。だから一人で食べてください。冷蔵庫にエビの尻尾が入ってますから」
「残飯じゃないか」
「おつまみには持ってこいでしょう?」
「酒飲まないし」
「それはそうと、連日連夜どうしてこんなに遅いんですか? もしかして浮気?」
「違うよ。僕だってもっと早く帰ってきたいんだけどね。別に夜遅くなっても、冒頭部でむりやり夕方だってことにすればいいのに」
「形だけ取り繕っても無駄です。私の目は超越論的なところまで届きますから」
「超越論ってそういう使い方していいのか。単にメタネタを使えるってだけだろ」
「第一、冒頭や末尾の文章を変えるだけで状況を設定できるなら、私の好きなように始めていいってことになるじゃないですか」
「まあ、そうなるか」
「『ベッドの中で互いに愛を確かめあい、相手のぬくもりを感じながら。一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます』とか事後感たっぷりにしますよ?」
「うん、よくないな」
「そんなムードの中で、みかんの皮剥きだのウドナーだの話したくないでしょう?」
「問題はもっと他にある」
「だから、なるべく夕方に更新するべきなんですよ」
「更新って言っちゃったよ。言わないようにしてたのに」
「まあ明日から三連休じゃないですか。ゆっくりできそうですし、久しぶりにどこかへ出掛けましょう」
「ゆっくりできそうなのになんでゆっくりしないんだ。僕は寝たい」
「私と?」
「一人で」
「じゃあ明日は家でのんびりして、明後日どこか遊びに行きましょう」
「わかった。でもあんまり遠くないとこね」
「『それだけ言って、彼は彼女の唇をむさぼり始めました』」
「末尾を捏造するな」
「『二人の夜はまだまだ続きます』」
「もう僕寝るから」




