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50/2024

ボイスレコーダー

 コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。

 一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。




「せっかくですから、お部屋のレイアウトを弄ってみましょう」


「これ以上変えるところなんてないと思うけど、まあ好きにすればいいんじゃない?」


「テレビとかコタツとかの位置は別にいいんですけど、納得いかない点が一つあるんです」


「どこ?」


「洋室のベッドです。どうして私とあなたで別々なんですか」


「僕としては一緒の部屋って時点で、かなり譲歩したつもりだったんだけど。第一ベッドの高さからして違うんだから、くっつけるとか無理だろ」


「じゃあ今のを捨てておっきいやつ買いましょう。イエスノーまくら付きの」


「無駄遣いはやめなさい。イエスノーまくら付きである必要性もわからないし」


「あなたさっき好きにすればいいって言いましたよね? ほら」


『まあ好きにすればいいんじゃない?』


「……いつの間に録音したんだ」


「こないだ買ってから常に持ち歩いてます。ボイスレコーダー」


『愛してるよ、ハニー』


「おい、僕そんな頭悪そうなこと言った覚えないぞ」


「入れ替わったときに録ったやつです。こんなのもありますよ」


『ハァ……ハァ……ごめんなさい女王様……。もうしませんから、そこだけは……!』


「やめろォ! 鬼畜か君は! そこってどこだよ! いや聞きたくもないけど! 目覚まし用だけじゃなかったの?」


「録ってるうちに楽しくなってきちゃって。他にもいろいろありますよ。九割あえぎ声入りですけど」


『うぅ……男なのに、赤ちゃんできちゃう……』


「死ねよ! 頼むから死んでくれよ! というか僕が死にたい! どんな状況だよ! なんかもう別の世界のセリフだろ! ドン引きだよ!」


「さあ、これを私の友人たちに広められたくなかったら、ベッドを一つにするのです」


「最低な女だな。本気で別れを切り出したくなってきた。やっていいことと悪いことがあるだろ」


「え……あ、すみません。やりすぎました……」


「消しなさい」


「え……?」


「いや、どうしてそこで世界の終わりみたいな顔をする? ボイスレコーダーに入ってるやつ、バックアップも含めて全部削除しろ」


「そんな……。私の宝物が」


「そんなもん宝にするな。とにかく全部消せ。……これからは、たぶん僕が毎日起こすことになるんだろうから、それでいいでしょ?」


「……考えてみれば確かに、本物に起こしてもらえるんですもんね。こんな自作自演、必要ないですね」


「寝坊していいって意味じゃないぞ。基本自分で起きてね」


「わかりました、全部消します。……でもせめて『赤ちゃんできちゃう』だけは」


「それ一番ダメなやつ」




 日は山に隠れ、星々が輝き出しました。

 月が今日を急かしていますが、二人の一日はまだ少しだけ続きます。

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