キャッチー②
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「タイトルを変更した結果、アクセス数が四倍になりました」
「…………」
「やっぱり『彼と彼女の千文字会話』なんていう地味でショボいタイトルじゃウケないんですよ。これからは『夕暮れの土手でツンデレな彼が私にズコバコ突っ込んでくるのらめぇ!』にしましょう」
「認めないぞ僕は……! そんな不埒であからさまなタイトル詐欺」
「それでもアクセス数増えてるんですけどね」
「世の中が間違ってる」
「気持ちはわかりますが、これが人間です。あなたは単純じゃないなどと言いましたが、実際単純なんですよ。間違っているのはあなたのほうです」
「いや、それ以前にダメだろう、こんなの。ただの釣りじゃないか」
「フィィィィッシュ!」
「グランダー武蔵やめろ」
「この業界、釣ってナンボですよ。こうでもしなければ莫大な文章の海に飲み込まれてしまいます」
「……僕はもっとこう、夕暮れの土手で二人がほのぼの語り合うノスタルジックなのがやりたかったのに」
「なんでそれがズコバコ突っ込んでくるのらめぇ!になってるんでしょうね」
「君のせいだよ百パーセント! メタネタが入るようになってからおかしくなったもの!」
「いや、こういうのを連載初期にやっておくことで作品に柔軟性ができるんですよ」
「そんな柔軟性はいらない」
「人間というのはですね、周りの環境に合わせて自分を変えていくものなんです。作品だって同じですよ。需要に合わせて供給せねば」
「なんで僕が諭されてる風なんだ」
「じゃあこれからもこのタイトルで続けるということで」
「続けないよ!」
「えー」
「地味なタイトルでも地道にやってればそのうち人気は出てくる。中身で勝負さ」
「中身なんてどれも似たり寄ったりです。きっとまたアクセス数減っちゃいますよ?」
「そんなもの気にする必要はない。っていうかなんなんだよ君は。誰かの心の中の悪魔か何かか。それにアクセス数の上昇なんて一時期だけだよ。内容はタイトルに全く関係ないんだから」
「なんでしたらいっそR15指定にしてエロ展開を入れたっていいじゃないですか。私は対応できます」
「しなくていい」
「ある程度ハードな要求でも承諾」
「しなくていい」
「勢い余ってノクターンへ移籍」
「しなくていい」
「なんでそんなにツンツン賢者なんですか。ほらほら『ま、まぁ君がそこまで言うならこのタイトルも悪くないかな』って言っちゃってくださいよ。こういうときのためのデレでしょう?」
「それはただ誘惑に負けてるだけだ!」
「じゃあこうしましょう。タイトルは戻します。代わりにこの会話は仮想世界の土手で行われているということにして、登録キーワードにVRMMOと」
「却下」
一人が腰を上げると、もう一人も立ち上がります。
そうしてどちらからともなく手を繋ぎ、今日に背を向けて、去っていきました。