引っ越しうどん
コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「やっと完了ですね、引っ越し」
「疲れた。結局ここと君の家往復する羽目になったじゃないか。引っ越し屋に頼めばいいものを」
「車があるんですからこっちのほうがいいでしょう。おっきい荷物なんてベッドくらいしかありませんし。節約できましたから、今日は店屋物でも取るとしましょう」
「賛成。出前なんて一人暮らしして初めてだな」
「マジですか。困ったときは出前ですよ私」
「ブルジョワめ。そんなんだからいつまでも料理が上手くならないんだよ」
「疲れてるせいかいつもより口が悪いですね。で、何にしますか? お寿司? ピザ? ラーメン? それとも私?」
「最後のはどういうことだ」
「せっかく引っ越ししたわけですから、引っ越し蕎麦にしますか?」
「引っ越し蕎麦ってお隣さんに配って回るものだろ? 細く長くお世話になりますっていう意味で」
「そばに来ましたって掛詞でもあるみたいですよ。これなら今の私たちにぴったりです」
「細く長くでいいのか」
「じゃあうどんにしましょう」
「そばに来ましたはどうなったんだ」
「もうめんどくさいのでうどんで。あ、もしもし、私ですけど、うどん二つお願いします。具はいつもので。場所は――」
「どんだけお得意様だよ」
「さて、うどんになったわけですが、せっかくなのでうどんゲームしましょう」
「何それ? 聞いたことないな」
「ポッキーゲームのうどんバージョンです。二人が互いにうどんの端と端をくわえ、すすり合います」
「汚なっ! そういう食べ物を冒涜するようなことやめろよ!」
「いえ、噛まずにすすり合うというのがポイントです。さながら綱引きのように競うことでうどんの喉越しを何度も味わえ、かつ愛する人に喉を刺激される感覚まで味わえるという究極の食べ方。キスまでもっていけたらプロウドナーですね」
「ウドナーってなんだ。ゴロラーと同じ匂いがするんだけど。闇のプロウドナーとかもいるのか?」
「闇のプロウドナーはゲーム中に相手の首を締めるという反則技を使います」
「反則っていうか犯罪じゃないか。絶対君が今考えただろ」
「香川県ではオーソドックスな食べ方です」
「訴訟起こされるからやめろ」
日は山に隠れ、星が輝き出しました。
月が今日を急かしていますが、二人の一日はまだ少しだけ続きます。




