硬派
コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「昨夜はお楽しみでしたね」
「楽しんでないから。言われた通り何もしなかっただろうが」
「おお臆病者よ、本当に何もしないとは情けない」
「さっきからなんでゲーム風」
「いや信じられませんよ。すぐ横で可憐な女子が寝てるのに爆睡とか。ちゃんと金玉ついてるんですか?」
「こないだ見ただろ。あと可憐な女子は金玉とか言わない」
「ちゃんと……その……き、きんたま、ついてるんですか?」
「可憐な感じに言い直すな」
「ちゃんと腹に一物あるんですか」
「その言葉はそうやって使うものじゃない」
「もしかして焦らしプレイ? だとしたらなかなかやりますね。私も負けませんよ」
「そのまま一生戦っててくれ」
「全くがっかりです。何をされるかドキドキしながらずっと待ってたんですよ? おかげで夕べは一睡もできませんでした」
「う、ごめん……ってどうして僕が謝らなきゃいけないんだよ。ただ君が馬鹿なだけなのに」
「私が馬鹿なだけではこんな状況にはなりえません。あなたにも問題はあるはずです」
「そもそも問題自体起きてないと思うけど」
「振り返ってみれば、あなたって基本自分から歩み寄ったり行動したりってことありませんよね」
「めんどくさいもん」
「本当は人とどう接していいかわからないだけのくせに『めんどくさい』とか一匹狼っぽく気取らないでください」
「君はたまに心を抉るようなセリフを吐くよね」
「わりと図星でした?」
「それなりに。でも僕は僕でいろいろ考えてるんだよ」
「どうやって私を自分好みに調教しようかと?」
「考えてない。あーもう、端的に言えば君を大事にしたいんだよ。こういうのはあんまり口に出すもんじゃないのに」
「なるほど。口に出す……」
「うん、言葉の一部分だけ抜き出して最低な想像をするのはやめてくれるかな? 台無しだから」
日は山に隠れ、星が輝き出しました。
月が今日を急かしていますが、二人の一日はまだ少しだけ続きます。




