今日から屋内
コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「あーやっぱりコタツはいいですねー。当然のごとく置かれたミカンが玄人っぷりを演出しています」
「何の玄人だ。本当はまだ出すつもりなかったんだけどね、コタツ」
「結構電気代かかりますもんね」
「君がいる間だけならいいかと思って」
「ああ、優しい。大好きです。コタツに入ってる間だけ」
「現金だな」
「で、今夜のお夕飯はなんでしょう?」
「さも当たり前のように食べていく気か。クリームシチューだよ」
「クリームシチュー! あのクリームシチュー伯爵がトランプの合間に食べられるようにと発明した食べ物!」
「そんな手軽なもんじゃないし新しい俗説を生み出すな」
「これは食後のデザートも期待できそうですね」
「そんなもんないよ」
「勘違いしないでください。デザートはわ・た・し」
「食ったら帰れ」
「冗談ですよ。それより早くクリームシチューを」
「ん」
「はい? なんですかこの手は?」
「食事代百円。プラス五十円で大盛」
「……彼女からお金取るとか信じられません。ドン引きです」
「これから毎日うちに来てご飯食べてくんでしょ?」
「私がデザート――」
「今すぐ帰る?」
「……わかりました。何かお手伝いするのでそれでチャラにしてください」
「まあそれならいいよ。何をしてもらうかは僕が決めるけどね」
「あまりハードなプレイは遠慮してくださいね? どうしてもというなら善処しますが」
「具はニンジンだけでいいよね」
「冗談ですってば。わあ、いい臭いです」
「漢字は『匂い』を使え。それも『におい』って読めるけど」
「いただきます……おお、クリーミィでコクのあるシチューが舌に絡みつきます。野菜にもよく火が通っている。こりゃあうまいシチューですねぇ」
「そこまでの感想は求めてなかったけど、まあありがとう」
「そうです! いっそ料理小説に路線変更してしまうのはどうでしょう?」
「文章で料理の紹介なんてしてもウケないだろ。だいたい僕そんなにレパートリー多くないし」
「毎日クリームシチュー食べて評価してれば」
「いいわけないだろ。それはもう料理小説ですらないよ」
「ふぅ、ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした。家まで送るよ、もう暗いから」
「やっぱり私の家で会話したほうが良かったですかね? そうすればわざわざあなたに送ってもらう必要もないですし」
「別にいいって。インドア派だけど散歩は好きだから。運動にもなる」
「もうこの際一緒に暮らしましょう。私、今日からここに住みます」
「今すぐ帰れ」
一人が腰を上げると、もう一人も立ち上がります。
そうしてどちらからともなく手を繋ぎ、今日に背を向けて、去っていきました。




