入れ替わりの入れ替わり
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「あ、僕から始まるんだ。用意してなかったよ」
「入れ替わってますからね。で、一日過ごしてみてどうでした? どんな破廉恥な行為で私の身体を弄んだんですか?」
「弄んでないよ。なるべくプライバシーを侵害しないように気をつけた」
「うわ、つまんない。普通男が女の子になれたらいろいろするでしょうに。何してくれてもよかったんですよ?」
「僕にもプライドくらいあるんだよ。そういう君は僕の身体で何したの?」
「とりあえず隅々まで調べさせてもらいました。この身体で知らないことはもう何一つありません。あなたより知ってるくらいです」
「最悪だ……。君には罪悪感ってものがないの?」
「いずれお互い熟知するのにはばかってどうするんですか。罪悪感なんて小悪党が逃避のために抱くものです」
「極悪人宣言するな。その様子だとそれだけじゃないね。他には何したの?」
「私への愛の言葉を録音させてもらいました。今朝はそれで爽やかな朝を迎えられましたね」
「また下らないことを。っていうか、自分の好きな人への言葉を目覚ましにして起きる男とか意味がわからない。気持ち悪」
「そうそう、今日は言葉攻めを録音する予定です」
「やめろ」
「それとも今罵ってあげましょうか? この変態女!」
「それはただの自虐ネタだ」
「あ、なら今の状態で私があなたを襲っても、それはただの性欲処理になるわけですか」
「ならないよ。下らないことばっかり思いつきやがって……。変なことしたら叫ぶぞ」
「どうぞやってみてください。でもそれで人生終了するのはどっちですかね?」
「君、男になるとただのゲス野郎だな」
「そういうあなたはまるで清純な乙女のようです。しかも僕っ娘。さあ、帰ってご飯でもなくお風呂でもなく私にしましょう」
「私にするってなんだよ。君が決めるのかよ」
「ふふ、こんな形で初夜を迎えるとは思いませんでしたが、それもまた一興」
「え、本気なの? 絶対嫌だぞ! 僕は僕の家に帰る! 君も君の巣へ帰れ!」
「でしたらあなたの家に……っとと!」
「おわっ、急に向きかえっ……」
「いたた……あ、あれ? 戻ってる! 早すぎますよ!」
「思った以上にネタが広がらなかったんだね。仕方ないね」
「あなたが私の身体で何もしなかったからです。サービス精神が足りないんですよまったく」
「なんで僕が責められてるの」
一人が腰を上げると、もう一人も立ち上がります。
そうしてどちらからともなく手を繋ぎ、今日に背を向けて、去っていきました。




