値上がり
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「いつもアホみたいな会話ばかりなので、今日はまじめな話をしましょう」
「自覚あったんだ。まあ、たまにはいいんじゃない?」
「お菓子の値上がりについてです」
「たいしてまじめじゃなかった。そんなの今のご時世、お菓子に限った話じゃないだろ」
「小麦粉とか燃料費とかが高騰して、それでもなんとか利益を出すために値上げするしかないのは理解できます」
「仕方ないよね」
「ですが、それで売り上げが変わらなかったからといって、諸経費の値段が落ち着いた後でも値下げしないのはいかがなものか!」
「言いたいことは分かるけど、お菓子くらいならそんな気にすることでもないんじゃない?」
「甘いですねお菓子だけに! そういう消費者の妥協が生産者の堕落を招くんです」
「大げさな」
「内容量が減ってお値段据え置きな場合もあります。この場合はいつまでも内容量が戻りません」
「値段より量を変えるほうが気づきにくいし、慣れれば気にならなくなるからかな」
「私の目は誤魔化せませんよ。たとえ表示していなくても持っただけでわかります。内容量はもちろん原材料や成分まで」
「わかってたまるか」
「む、これはポリプロピレン」
「それはパッケージの材質だ」
「思いつきました。経費が上がったなら他の部分を削減すればいいじゃないですか。いっそラップで包んでおけば」
「おばあちゃんか。湿気るし衛生の面から見ても最悪だろ。そもそもパッケージにはそんなお金かかってないよ、たぶん」
「じゃあ、卸売りのシステムを廃止しましょう。今はネットの時代ですから、みんな企業に直接注文すれば」
「配達料を計算に入れれば変わらない、というか逆に高くなるよ。お徳用でも買えば?」
「くっ、企業の傲慢を正すことはならぬというのか……」
「誰だよ」
「人間も同じですよね。この人に対してはこんな感じでもいいかってなって、相手への対応がおざなりになります」
「いきなり心の闇を見せるな」
「私のあなたへの愛は据え置きなので安心してください」
「たまにそういうことを恥ずかしげもなく言うよね。嫌いじゃないけど」
「内容量も値段も変わりません」
「やっぱり嫌いだ」
「この会話はネタが尽きたら文字数減量で」
「そこは頑張ってひねり出そうよ」
「彼と彼女の十文字会話」
「僕何も言えないなそれ」
一人が腰を上げると、もう一人も立ち上がります。
そうしてどちらからともなく手を繋ぎ、今日に背を向けて、去っていきました。




