洗濯物
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「洗濯物がぜんぜん乾きません」
「寒くなってきたからね。洗濯機に乾燥機能とかついてないの?」
「そういうのを買っておけばよかったんですけど、あいにくです」
「コインランドリーとか近くにないの?」
「洗濯物わざわざ持っていくなんて面倒です」
「なんでも面倒くさがる君が何より面倒だよ」
「今の時期、休日はどこのコインランドリーもいっぱいじゃないですか。それに乾燥機は服の傷みが早まるのであまり使いたくないんです」
「除湿機の風を当てるとかは?」
「そんなものを買うお金はありません。これからは空気が乾燥する季節ですし。なのに服は乾燥しないとか詐欺ですよね」
「ドライヤーは?」
「洗濯物に向かってかけ続けるんですか? 疲れます」
「そこまで言うならいっそ濡れたまま着ればいいだろ」
「本気で言ってますか?」
「いや、さすがに冗談だ。何言っても否定されるからつい」
「濡れたまま着たらまた風邪ひいちゃいますよ。だから今日は一日ノーパンでした」
「何してんだ馬鹿。追加で買うなりなんなり対策しろよ。それこそドライヤーですぐ乾くだろ」
「縮んでティーバックになってしまいます」
「なるか馬鹿。それでも穿いてないよりマシだろ」
「縮んでティーバッグになってしまいます」
「どんだけ縮むんだ。しかも君のパンツは乾かすとお茶っ葉のつまった袋になるのか、って話を逸らすな。ホントに穿いてないの?」
「そんなにノーパンが気になるんですか?」
「気になるよ。僕の彼女が変態かそうでないかの分水嶺だぞ」
「そんなにノーパソが気になるんですか?」
「そうそう、最近動き悪くてねー。メモリ増設しても全く改善しないから、新しいやつ買っちゃおうかなーなんて……だから話を逸らすな」
「今のノリツッコミはちょっとテンポが悪かったです」
「ダメ出ししなくていいから。それより変な格好してて誰かに見られたらどうするんだ」
「大丈夫です。もしそうなっても『こ、これは彼に言われて仕方なく……』って」
「濡れ衣だ!」
「おお、洗濯物の話題に戻りましたね」
「戻ってない! 結局どっちなんだよ……」
「さあ、どちらでしょう? 実際に見てみなければわかりません。私の下半身は今、穿いている状態と穿いていない状態が重ね合わさっているのです。題してシュレーディンガーのーパン」
「シュレーディンガーに謝れ」
一人が腰を上げると、もう一人も立ち上がります。
そうしてどちらからともなく手を繋ぎ、今日に背を向けて、去っていきました。




