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36/2024

母娘

 土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。

 一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。




「帰ってきたのに顔色が一向に回復しませんね。ゆうべ何があったんですか?」


「オトウサン、コワイ。オトウサン、コワイ」


「朝からそればっかり。運転も覚束ない感じで少し怖かったですよ」


「だってさ、なんでお父さんと同じ部屋で寝るはめになるの? 拷問?」


「私もそこは納得いきませんでしたよ。あなたと一緒の部屋になるべきなのは普通私でしょう? で、昨夜は私の話に花を咲かせたわけですか」


「うん、まあそんな感じ。君に関するクイズ100問とか」


「修学旅行の中学生みたいなことしてたんですね。全部答えられましたか?」


「『娘が生まれて初めて喋った言葉は?』なんて分かるかっ! しかも答えが『アジャパー』ってなんだよ! こじつけだろ!」


「赤ん坊がそんな死語喋るわけないですからね」


「間違えるたびにお父さんからの呼び名が変わっていったよ。最終的に『虫ケラ君』になったからね。泣きたくなったね」


「私の胸で泣いてもいいんですよ、虫ケラ君」


「慰める気ないだろ。……お父さんから見て僕って、そんなに君にふさわしくないのかな?」


「私と釣り合う男なんてそうそういないですよ」


「黙れ小娘」


「人見知りが激しいタイプなんです、お父さん。そのうち仲良くなれますって」


「そうだといいけど。そういえば途中耐えられなくなって抜け出したとき、君が勇気付けてくれたのはありがたかったよ。少し気が楽になった」


「はて? 私そんなことをした記憶がないんですが」


「え?」


「ずっと自室で寝てましたもん。それ、本当に私でしたか?」


「暗くてよくわかんなかったけど、声は確かに……いや、聞いてないな」


「聞いてない? 喋らずに勇気付けるなんてどうすれば?」


「……あ、ああー、もう僕疲れた。眠いから家帰って寝るよ。うん、それじゃ」


「ちょっと待って」


「ハイ」


「その『私』に、何をされたんですか?」


「テヲニギツテクレマシタ」


「それだけですか?」


「ハイ。ソレダケんっ」


「っ! これは、おふくろの味……!」


「それはそういうふうに使う言葉じゃない」


「他に言うことがあるでしょう?」


「すいませんでした……え? 僕が悪いの?」


「気づかないあなたの過失です。キス程度で済んだということは、からかわれただけ。早く進展しろというお母さんなりの激励でしょう」


「君ん家の常識についていけない」




 一人が腰を上げると、もう一人も立ち上がります。

 そうしてどちらからともなく手を繋ぎ、今日に背を向けて、去っていきました。

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