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尋問

 土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。

 一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。




「いやぁ、お父さんは強敵でしたね」


「お父さんの笑顔が怖すぎた。かと思えば突然真顔になるし。なんかもう疲れた……」


「同感です」


「君、全然フォローしてくれなかったじゃん」


「いつもとキャラ違うんですもん。あんな圧迫面接みたいになるとは思いもしませんでした」


「圧迫面接じゃないあれは尋問だ。仕事は何してますかとかうちの子を選んだ理由をお聞かせくださいとかあなたの長所をアピールしてくださいとか。しかも君んちの親戚一同揃ってる中でとか、正気の沙汰じゃないだろ。法事はどうした」


「娘とはどこまで進みましたかって聞かれたときはフォローしたでしょう?」


「本当に余計なことしてくれたよね。こないだキスしましたって君が言ったときお父さんの背後に不動明王が見えたからね。『ほう……』って言ってゲンドウスタイルになったきり黙り込んだときはもうダメかと思った」


「私たちの年齢でキスまでって、かなり健全なお付き合いだと思うんですけどねぇ」


「しかも君の家系って全員ですます調なんだもんね。フリーザに囲まれた気分だったよ冗談抜きで」


「どんな人にも丁寧に接しなさいというのが家訓なんです」


「素敵な家訓だけど君の場合ただの慇懃無礼だよね」


「というのは建前で、本音はこの口調のほうが敵を油断させやすいからです」


「暗殺稼業でも営んでるの? そうだとしても不思議じゃないけども」


「まあ良かったじゃないですか。最後には打ち解けられて」


「君にはあれが打ち解けてるように見えたのか」


「最後にお父さんと握手してたでしょう?」


「うん、あそこで声を上げたら負けかと思って頑張ったよ僕。褒めて。わりとまじで褒めて」


「はい……? じゃあ、偉い偉いっと。普段はもっと茶目っ気のある人なんですけどね」


「そのくらい大切にされてるってことだろうね」


「あ、でもお母さんは優しかったでしょう? ときどきフォローもしてくれましたし」


「いや、お父さんがラスボスだとしたらあの人はEXボスだと思う」


「若干セクハラ受けてましたよね」


「若干じゃない純然たるセクハラだ。君がどうしてそういう性格なのかよくわかった。なんで服の下に手入れてくるんだよ。あまつさえ肌をなで回すんだよ。お父さんの目がレーザーでも発射せんばかりに光ってたよ」


「お父さんに嫉妬して欲しかったんですよあれは。見事目論見通りだったようで」


「娘の彼氏をダシに使わないでほしい。したたかってレベルじゃない」


「そんな人たちがいる家に今日は一泊するわけですが」


「僕が死んだら灰はいつもの川に流してくれ。ここじゃなくて」


「では、いつものように手を繋いで帰りましょう。この戦いが終わったら結婚しましょうね」


「あれ、これ本当に僕死ぬんじゃない?」




 一人が腰を上げると、もう一人も立ち上がります。

 そうしてどちらからともなく手を繋ぎ、今日に背を向けて、去っていきました。

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