早起き
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「今日は折り入ってお願いがあります」
「何? そんな改まって」
「明日は事情があって早起きしなければなりません。起こしに来てください」
「え、目覚まし掛けとけば起きられるでしょ。用事があるなら二度寝の心配もなさそうだし」
「普段は遅寝遅起きなので早起きは自信ないんです。特別に寝込みを襲ってもいいのでお願いします。あ、でも手短に」
「手短にじゃないよ。前から疑問だったんだけど、君は僕をなんだと思ってるの?」
「全自動目覚まし炊事掃除買い物洗濯おしゃべり愛玩マシン」
「そっかじゃあそこに説教も加えてもらえる?」
「冗談ですよ。マシンではなく恋人です」
「重要な部分が何一つ撤回されてないんだけど」
「はぁ、真面目な相談なのに、これじゃ埒があきませんね」
「不真面目にしてるのは間違いなく君だ」
「起こしに来るのが無理なら、何か別の案を考えてください」
「なんで僕が……。いつも何時に起きてるの?」
「9時ですかね。そんなに遅くないでしょう?」
「十分遅いよ。で、明日は何時に起きなきゃいけないの?」
「4時です」
「早っ。徹夜すればいいんじゃない? 今のうちに寝ておいてさ」
「その手がありましたか。わかりました。今夜はあなたの家に泊まります」
「えっと、何をわかればそうなるの?」
「徹夜なんてしたことないので怖いんです。もしおばけが出たらと思うと」
「昨日おばけの仮装してた人間が何言ってるんだ」
「丑三つ時まで起きてたことはありません。泊めてくれるだけでいいですから。あなたは寝てていいですから。何もしませんから」
「信用できないし、なんか立場が逆な気がする」
「先っちょだけですから」
「何の話だよ! 君最近ホントに酷いな! 無理矢理進展させようとしてない?」
「テコ入れです。キスはしちゃったんですから次はもっと過激なことをしないと。ねぇ?」
「ねぇじゃない。打算的すぎる。そういうの萎えるからやめなよ」
「むしろ勃つと思うんですが」
「何がだよ! 気分の話をしてるんだよ僕は!」
「私だってそこまで計算してやってるわけじゃないです。ほとんどその場のノリです」
「それはそれで問題だ」
一人が腰を上げると、もう一人も立ち上がります。
そうしてどちらからともなく手を繋ぎ、今日に背を向けて、去っていきました。




