積み本
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「積み本が一向に減りません」
「積み本? ああ、買っておいて読んでない本とか、読みかけの本とかのことね」
「読みかけでその辺に積んでおくものですから、だんだん部屋を占領してきて」
「片付けなよ」
「そう思って昨日片付けました。読まなさそうなやつはダンボールにしまったんですけど、読みたい本があれば持っていっていいですよ」
「どんなのがあるの?」
「民間療法の本とか」
「絶妙にいらない」
「なぜか三冊もありました」
「一体何がしたかったの」
「たぶん惚れ薬を作りたかったんだと思います」
「少し恐ろしい話を聞いた気がする。今度から君に物を貰うときは注意するよ」
「もう遅いですけどね」
「何か聞こえたけど聞こえなかったことにする」
「あとはシリーズものの一巻だけとか」
「また微妙だな。気持ちはわかるけどね。面白いって評判でも肌に合わないときとかあるし」
「ハリーポッターの原書などは?」
「見栄はって英語勉強しようとして失敗したパターンだね。いらない」
「友達付き合いで買った男の子同士が裸でくんずほぐれつしてる本もあります」
「それを僕が欲しがるとでも?」
「あれ、同性愛好きじゃなかったんですか?」
「なんでだよ。いつから僕にそんな疑惑が立った」
「私の誘惑にあまりにも乗ってこないので。私の魅力が足りないとは考えられず、となればホモ疑惑が湧くのは必定」
「必定じゃない。ただ単に貞操観念が強いだけだ」
「貞操観念が強い男とか、余裕ぶっててムカつきますね。モゲればいいのに」
「口悪っ。そういう君は貞操観念ってものを少しは持ちなよ」
「私が無防備になるのはあなたの前だけです」
「ここぞとばかり媚びてくるな」
「媚びる女の子を拒むなんて、やっぱりホモじゃないですか」
「意味のわからない二元論を盾にいちゃつこうとするな。僕はそういうの性に合わないんだよ」
「じゃあこうしましょう。明日私が普通のエロ本を買ってきます。そしたら貰ってくれますね?」
「わかったよ……いや全然意味わからんけど」
一人が腰を上げると、もう一人も立ち上がります。
そうしてどちらからともなく手を繋ぎ、今日に背を向けて、去っていきました。




