花とトゲ
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「今日コンビニで、すごく綺麗な女の人が店員さんの手際の悪さに舌打ちするのを見てしまいました」
「ふーん。綺麗な花にはトゲがあるってやつだね」
「綺麗だけどトゲのある花と、綺麗じゃないけどトゲのない花、どっちがいいですか?」
「綺麗じゃないとは随分な……。その辺りは見方で違うんじゃないかな? まあ僕は綺麗でトゲのない花がいい」
「理想主義者ですか。女の敵ですね」
「それを言うなら君だって綺麗でトゲのない男のほうがいいだろ」
「そんなことはありません。第一、トゲのない男なんていません」
「現実主義者か。まあ男がみんなトゲを持ってるというのは同意だよ。ちんグハッ!」
「下ネタを言う人は論外です」
「……じゃあ、君は多少トゲがあっても受け入れられると?」
「そうですね。何か一つでも長けているところがあれば」
「つまりちんブヘッ!」
「下ネタを言う人は論外です」
「……具体的に何が長けてればいいの?」
「金、顔、名声、権力」
「強欲が服を着てる。性格とかは?」
「性格は後からどうにでもなります。最近は顔も後からどうにかなりますね。所詮トゲはトゲ、邪魔なら削ぎ落としてしまえばいいんです」
「……君は間違いなくトゲがあるね」
「綺麗ですから」
「逆推論は成り立つんだろうか」
「ツンデレですし」
「もうそのキャラ付けは手垢がつきまくってるし、そもそもどこにデレがあるのか。まあそういうのがいいって言う人もいるけど、僕は素直な人のほうが好きだよ」
「あなたの嗜好なんて興味ありません。まぁ、どうしてもというなら合わせてあげなくもないですが」
「それはひょっとしてツンデレのつもりか。別に合わせてくれる必要はない」
「ようは素直になればいいんでしょう? 欲しいものがあるので買ってください」
「それ素直じゃない。無遠慮」
「ケチですね。財布の紐がキツい男はモテませんよ? お金ないんですか?」
「それ素直じゃない。率直」
一人が腰を上げると、もう一人も立ち上がります。
そうしてどちらからともなく手を繋ぎ、今日に背を向けて、去っていきました。