暖房
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「寒くなってきたせいで、朝、布団からでるのが億劫です」
「分かる分かる。早く起きても二度寝しちゃうよね」
「昨夜とうとう毛布を出したんですが、失敗でした。毛布の吸引力は半端ないです」
「より出にくくなっちゃったか」
「かと言ってストーブをつけるほど寒くもない。節約のためならまだ我慢できる微妙な気温」
「もうストーブ出しちゃえば?」
「石油代がバカにならないんですよねぇ。ガスストーブよりかは安いんですけど」
「ケチケチしてるとまた風邪ひくよ。薬代とか診察代がかかるよりマシじゃないかな?」
「それはまぁ。でも何より腹立たしいのが……暖かい空気って上にいくでしょう? つまり、私のストーブが出した熱が上の階を意図せず暖めていることになるんです!」
「ケチ過ぎる。それくらい別にいいだろ」
「私の部屋の熱を勝手に盗んでるようなものですよ? 受熱料を払っていただきたい」
「国営放送じゃないんだから……。窓から逃げる熱のほうが大きいよ絶対」
「窓には発泡スチロールを貼っておくので問題ありません」
「怖っ。外から見たら何事かと思うだろ」
「こうなったら壁も床も天井も全て発泡スチロールの板で覆ってしまいましょうか。熱の逃げ道を完全シャットアウトです」
「一酸化炭素の逃げ道も完全シャットアウトするから死ぬぞ。絶対やっちゃダメだからね」
「じゃあもっといい方法を教えてください。暖まってお金がかからなくて、かつ他人に得させない方法を」
「最後のは許容しろよ。えっと、重ね着するとか」
「顔が寒いですし動きづらいです。お風呂入るときとか寒そう」
「じゃあ運動すれば?」
「条件はクリアしてますけど、めんどくさいし疲れます」
「軽くだよ軽く。スクワット三十回もすれば暖まるでしょ? それも嫌ならもう湯タンポでも抱えて生きろ」
「あれはわりとすぐ冷めちゃうじゃないですか。あ、そうです! あなたが私を抱えて生きれば! 暖かいしお金かからないしいろいろお得です」
「重いよ、いろんな意味で」
「これまでの話を総合すると、抱き合って運動すればいいんですね」
「素直に厚着しとけ」
一人が腰を上げると、もう一人も立ち上がります。
そうしてどちらからともなく手を繋ぎ、今日に背を向けて、去っていきました。




