すばらしい会話
「今日はちょっと時間があったので、創作料理してみました。ナスと玉子のチャーハンです」
<おおー……見た目は微妙だな>
「でも微妙な見た目に反して味は」
<いいの?>
「ナスの苦味が玉子に染み込んでて最悪です」
<悪いのかよ。どんな文法だ>
「え、微妙って趣深くてなんともいえない美しさがあるって意味で使ったんじゃ……?」
<確かにそういう使い方もあるけども。明らかに君のそれには当てはまらないだろ。玉子とご飯がナスのせいで黒ずんでるじゃん>
「ふーむ、本来は良い意味なのに否定的な使われ方をされてる言葉って、なんとも不憫ですよね。『微妙』に限らず、『貴様』とか『適当』とか。『斜に構える』っていうのも皮肉っぽい態度を取るみたいな使われ方してますけど、元は姿勢を改めるって意味なんですよ」
<へぇ、知らなかった。でもやっぱり言葉の意味が変わってくのは仕方ないんじゃないかな。人によって少しずつニュアンスが違ったりするし、その辺りの感覚を百パーセント伝えるのは無理だから>
「ちなみに逆パターンですが、意外なところで『素晴らしい』という言葉。元々は酷い有り様を表すのに使われてたそうです。みすぼらしいと語源が同じで、すばらしい苦労、みたいな使われ方をされてたとか」
<苦労することは立派って見方もあるから、意味が変わっちゃったのか>
「というより、本来『苦労』には悪い意味しかなかったところに、いつ頃からか苦労礼賛の時代が来てしまったのでは? 苦労の持つ印象が良くなったのに引きずられて、『すばらしい』も良い意味になってしまったんじゃないでしょうか。ニーチェみたく文献学的な研究を進めれば論文一本書けるんじゃ」
<うんちょっとタンマ。そろそろ僕の脳ミソがついていけなくなってるから難しい話やめようか。っていうか何このクソ真面目な会話。昨日はプールで放尿する話だったのに起伏激しすぎだろ>
「つまり私が何を言いたいかというと、本来的な意味でこの紫色のチャーハンはすばらしい料理だということです」
<その言い換えはむなしさしか感じない>
「目上の人にお世辞を言わなきゃいけないときにとても便利ですね。こっちは思いっきり相手を貶せて、かつ相手はポジティブに受け止めてくれます。部長のアイデアはすばらしいですね、とか」
<やめてよ。今度から称賛を素直に受け取れないじゃんか>
「すばらしい1日、すばらしい人生、すばらしい世界、すばらしい未来――ああ、すばらしいとはなんてすばらしい表現なんでしょう! あのすばらしい愛をもう一度……」
<名曲が台無しになる。ややこしいから今使ってる意味で統一しよう。斜に構えないのが一番だ>
「斜に構えるは本来」
<うるせぇよ!>




