看病
「いやぁ、家まで来て看病してくれるなんて感激です。愛を感じますねぇ」
「僕の家に押し掛けようとしてたやつのセリフじゃないな。なんだよ『看病してほしいので今からそっちに行きます』って。病院に電話掛け間違えたのかと思ったよ」
「市民病院の内科にイケメン医師がいたら、ちゃんとそっちに行ったんですけどね」
「料理の途中だけど帰っていいかな?」
「耳が詰まって聞こえません」
「何を分泌してるんだ君の耳は。詰まるのは鼻のほうだろ」
「昨日からお風呂に入ってないので。ご飯の後に身体を拭いて頂けるとありがたいです」
「起き上がれないほど重病には見えないんだけど。昨日ほど熱もないんじゃないの?」
「まだ三十八度弱ありまして」
「三十七度後半だそれは」
「いいじゃないですか。女の子の身体を自由に触れるんですよ? そもそもそれが目当てで来たんじゃないんですか?」
「本気で帰るぞ」
「冗談ですよ冗談。あ、ネギは入れないでくださいね」
「風邪のときくらい好き嫌いするな。はい、召し上がれ」
「おおーこれはまた豪華な。卵がゆに生姜湯にポカリに……なんですかこのシワシワの白いのは」
「湯葉だよ、自家製の。消化にいいし栄養もあるからね。大豆タンパクとかイソフラボンとか」
「あーユバ。豆腐の薄いやつですか。使用済みコンドームかと」
「どこの! 世界に! そんなもん病人に出す馬鹿がいるんだよ! 謝れ! 僕と湯葉に!」
「おえんあはいおえんあはい。うぅ、ちょっとした冗談で頬っぺた引っ張らないでください。病人ですよ私」
「うるさい。自家製だと売り物みたいにキレイにできないんだよ。箸で摘まんだときに先細りになるの」
「てっきり私に精をつけさせようとしてくれてるのかと思いました。文字通り」
「もういいから早く食べて寝ろ」
「では、いただきます。まずはコンドームから」
「湯葉だって!」
「ズズズズルズル」
「普通に食え!」
「あ、美味しい。味はちゃんと湯葉ですね」
「味以外も湯葉だ」
「次は卵がゆを。じゃあ、お願いします」
「……は? 何を?」
「このシチュエーションならやることは決まってるでしょう。あーんです。まああなたがどうしてもというなら口移しでも構いませんが」
「風邪まで移るからそれ。はい、あーん」
「あーんアヂャヂャヂャヂャヂャヂャ!! ハフッハフッハフッハフッ! なにするんれすか!」
「あーんしてって言ったのは君だろ」
「ちゃんとフーフーしてくらさいよ! あぁ、舌を火傷しました……」
「フーフー。はい、あーん」
「あーんアヂャヂャヂャヂャヂャヂャ!! ハフッハフッハフッハフッ! ちょっと! 馬鹿にしてるんれすか!」
「うん、ごめん。面白くてつい」
「弱ってるからって調子に乗らないれくらさい!」
「その言葉はそのまま返す」




