主体しかない世界
私はなすすべなく、手の中で動かなくなっていく小鳥を見守るしかなかった。それは家に着く前に事切れた。
大抵いつもそう。私が世話をしたり、しようとした動物や植物はみんな死んでしまう。河童の言うとおり、ダメになってしまう。世話の仕方が間違っているのか、可愛がり過ぎなのかは未だにわからない。
もしかしたら私は、死にそうな生物を引き寄せやすい、あるいは死にそうな生物に引かれやすい性質を持っているのかもしれない。
「小鳥、結局死にました」
「そうか。そりゃ残念だったな。河童さんのせいにしてくれていいぜ」
「別にそんなこと。私が勝手に助けようとして、勝手に失敗しただけですから。ぜんぶ私のせいです」
「わざわざ自分を責める必要もないと思うが。この世の生きとし生けるものは、みんな勝手に生まれて、勝手に生きて、勝手に死んでんだからよ。そりゃそいつ自身の責任だ」
「河童さんは、厳しいですね」
「世を捨てるとこうなるのさ」
「私には何が正しいのかわかりません。でも学校ではみんなで助け合いましょうと学びます」
「それはそれで一つの方法だな。一人で生きるか、みんなで生きるかってのは、たんなる生存戦略だ。もちろんどんな方法だろうと、いつも正しいわけじゃない」
「でもいいことではありますよね? 助け合いって」
「善悪っつーのはある道徳的規範を持つ社会があって初めて成り立つ概念だ。嬢ちゃんがもしこの世界にたった一人だったら、どんな悪さしようと関係ないはずだぜ」
「というか、そんな世界にどういう悪事や善行がありえるんですか」
「そもそも善いとか悪いって概念がないな。ズボンのチャックが開いてることを注意する相手もいないし、倒れてる自転車起こしても、公園のトイレットペーパー使ったあと三角に折りたたんでも誰も喜ばん」
「河童さんが思う善行スケール小さすぎません? あ、落ちてるゴミをひろうとかは? 地球に対する親切」
「そりゃ擬人化だな。地球は環境汚染に対してなにも思ってねぇよ。地球のためにポイ捨てはやめようだの自然のためにゴミ拾いしようだの言う言説は全部欺瞞だ。ホントは自分たちのために環境を守らねぇといけねーだけなのにな」
「河童さんは守ってないじゃないですか」
「おれには関係ねぇ話だもん。いわば河童さんはそういう世界に生きてんだよ。この人間世界にたった一人の河童として、善悪の彼岸で遊ぶのさ」
「いまのセリフもう一回言ってください」
「嬢ちゃんは間違いなく悪いやつだな」




