ムーミン谷の薫陶
私がやたらと斜に構えた態度を取るのも、物事を穿って見るのも、好きな人を煽るのも、元をたどれば河童の影響である。彼が知ったら河童になんと文句をつけるだろう?
「自由のことをもっと知るために、自由についての格言を調べてみることにしました」
「なんだ、昨日の答えで満足しなかったんか?」
「河童さんが自由をどう捉えているかはわかりましたよ。でも誰かの個人的な考えだけでは研究になりません。もっと多くのサンプルが必要なのです」
「お前ほんとに小学生か」
「小学生舐めないでください」
「舐めたら逮捕だろうな。それで格言ねぇ。まぁ、特定の時代や文化の中での言葉の使われ方に注目するってのは、悪くねぇ方法かもな」
「例えばドイツの哲学者、カントさんはこんな言葉を残しています。『互いに自由を妨げない範囲で、わが自由を拡張すること、これが自由の法則である』」
「はぁ、河童さんにもあったわ。とりあえず哲学者のよさげな言葉を蒐集する時期」
「この自由の法則に則るなら、河童さんは自由じゃないということになりますね。他人の自由を妨げてますから」
「河童さんの自由を妨げといて他人の自由を妨げんなたぁ、ちゃんちゃらおかしいぜ」
「ちょっと、カントさんをバカにしないでください! 河童さんなんかよりずっと深く物事を考えた人なんですから!」
「嬢ちゃんはカントのなんなんだよ。つーか前後の文脈なり論理なりをほっぽって耳聞こえのいいとこだけ抜き出してきたってなんにもわかんねぇだろ。カントはもっと怜悧かつ慎重に論証を進める男だ」
「河童さんはカントさんのなんなんですか」
「言葉の使われ方に注目したのはよかったが、それで格言を選んだのは間違いだったな。そういう後世に影響を与えてる言葉は、現代の価値観と共通するもんが必然的に多くなる」
「お母さんの顔が私と似てるのと同じですか」
「順番としては嬢ちゃんの顔がお母さんと似てるんだろ。そもそも自由だの善だの愛だの友情だの、物理的に存在しない対象を指す言葉ってのはよ、言うなれば大勢につっつき回された料理なんだ」
「料理、ですか。おいしいからみんなつつき回すと」
「少し違うな。みんながつつきまわすから、うまいもんだと感じちまう。それでさらにつつきまわすやつが増える。毎日毎日不特定多数につっつかれて、しかもみんな思い思いの食い方するから、とうの昔に原型なんて留めてねぇ。自由を知りたきゃ、自然に帰るのが一番だ」
「なかなかかっこいい言い回ししますね」
「煽んなよ」
「いえ、本当に。もう少し言葉遣いが丁寧で、痩せてて頭がフサフサでギターが弾けて顔が良かったらスナフキンみたいなのに」
「仮定多すぎだろ。大和を宇宙戦艦にするくらい大改造が必要じゃねーか」
「濡れ布巾と同じ匂いはします」
「スナフキン関係なくなったぞコラ」
「頑張って目指しましょうよ、スナフキン。知ったようなこと言うところまではできてるんですから」
「やっぱ煽ってんだろ」




