小さい秋見つけた
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「あ、焼き芋屋さん」
「そういう季節だったね、そういえば」
「小さい秋見つけたってやつですね。どんなときに秋がきたって感じますか?」
「玄関の戸が開きやすくなったときかな。あと秋刀魚がスーパーで推され始めると秋になった気がするよ」
「私は便座が冷たくなると秋の到来を感じます」
「いきなり何を言い出すのか」
「びっくりしますよね、温かいと思って座ったら逆に冷たかったとき。ひゃんっ、てなります」
「なんでちょっと可愛い感じにアピールしたの? 便座に腰掛けた時の話だよね?」
「あと意図せずウォシュレットを発動させてしまったときとか、驚きますよね」
「うちウォシュレットとか高級なもの付いてないから、その恐れはないな」
「子供のとき間違ってやってしまって泣きました。妖怪垢舐めが出たかと」
「垢舐めって便所に出没するような妖怪だっけ?」
「妖怪糞舐めが出たかと」
「勝手に最低な亜種を生み出すな」
「あのときは貞操の危機すら覚えました」
「そんな危機を覚える子供ってなんかヤだな」
「今ではウォシュレットもやみつきになりましたけどね」
「それもなんかヤだよ。というか秋の話をしようとしてたんじゃなかったの?」
「そうでした。それで便座のヒーターを使うのは電気代が勿体ないと思って、便座カバーを買ったんです」
「うん、もう少し戻ってほしかったかな。どんだけ便所の話がしたいの?」
「驚きましたね。カバー一枚であんなに違うとは。ただO型とU型があってですね、間違えて買ってしまったU型をあなたにあげます」
「このために秋の話をしたの? ありがたいけど釈然としない。それにうちもたぶんO型なんだけど」
「じゃあ最近寒くなってきましたから、マフラーとして使ってください」
「使わないよ! 勝手に首に巻き付けるなよ! 構造的にも世間的にもあり得ないよ!」
「仕方ないですね。じゃあこの便座カバーを一度ほどしてマフラーに編み直します」
「バレンタインデーのチョコレートか」
一人が腰を上げると、もう一人も立ち上がります。
そうしてどちらからともなく手を繋ぎ、今日に背を向けて、去っていきました。




