帰ってきた彼女
「帰宅! あー疲れました。これでようやく楽にできます」
「お疲れ。正月に気を張りつめさせちゃったみたいで悪かったね」
「ホントですよ。誰ですかあなたの帰省についてくなんてこと考えたのは」
「その文脈で君以外誰かいるのか」
「お母さまから孫の話題をふられたときは日頃の不満が爆発してしまいそうでヤバかったです。どうして貴女はこの人をこんな精神的インポ野郎に育ててしまったのかと」
「揺り戻しなのか言葉遣いがいつもの二倍ひどいな。山姥的な何かがあの子を食べてすり代わってるんじゃあるまいか」
「そんなにあのキャラ気に入りました? 向こうにいた間はあなたもずいぶん優しくしてくれましたけど」
「というか、今の君が嫌だ。いい加減だしぐうたらだし変態だし」
「そんな面と向かって否定しなくても……。こうやって本当の私を見せられるのは家族とあなたくらいなものです。それでも嫌ですか?」
「……まあ、僕の前だけでなら楽な君で」
「ですよね! あなたならそう言ってくれると思ってました」
「せめて全部言わせろ」
「でも男の人ってああいうお淑やかで清純な子が大好きですよね。後輩系って言うんですか? そばに行くとどことなく落ち着きがなくなって、ちょっと本気で迫ればイケたんじゃないかと」
「かもね」
「えっ、マジですか。なら良い雰囲気のときにあのキャラ演じてあげてもいいですよ?」
「やめて。何も信じられなくなるから」
「大げさですねぇ。確かに演技も入ってますが、百パーセント偽りの演技なんてありえませんよ。あの私は私がもつ人格の一つです」
「なにその中学生の妄想みたいな設定」
「私の人格は百八まであります」
「煩悩の間違いじゃないのか。逆にそこまで細分化できるのが凄いよ。で、残りの百八はいつ出てくるんだ?」
「明日から一日一つずつ出していきましょうか」
「至極めんどくさいからやめようよそういうの。考えるほうの身にもなろうよ。絶対途中でかぶるキャラ出てくるから」
「ちなみに今の人格は正常位と言い、昨日までの人格は後輩位と言います」
「とうとう下ネタも解禁か。懐かしさすら覚えるね」
「他にも気丈位、慎重位、考査位、松葉崩し、まんぐり返しなどがあります」
「後半ひねりすらしないのはどうかと思う」
「意味がわからない子はお父さんお母さんにきいてみましょう」
「家族間不和の種を撒くな!」




