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10/2024

他人の空似

 土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。

 一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。




「さっき少し恥ずかしい思いをしてしまいました」


「へえ、どんな?」


「あなたに似た人が歩いてて、私に手を振ってきたように見えたんです」


「ああ、それで手を振り返したら、勘違いだったわけか」


「いえ、抱きついたら勘違いでした」


「盛大な勘違いだな。え、なんでよりによってそんなときに? いつも僕にはそんなことしないじゃん」


「いつもよりイケメンに見えて抱きつきたくなったんです」


「なるほど……いやなるほどじゃないよ。それ僕のイケメンバージョンが現れたから抱きついたってだけだよね?」


「あなたに似てなければ抱きついてないです」


「素直に喜べない」


「おかげでおいしい思いができました」


「……分かっててわざと抱きついたんじゃないよね?」


「さてどうでしょう。故意かもしれませんね、恋だけに」


「やかましい」


「そのあとちょっと話し込んでしまったんですけど、トークがすごく面白かったです」


「うん完全に僕の上位互換だね。え、何これ、恥ずかしい話と称した浮気の暴露?」


「もしや昨日見た未来のあなたは、実はあなたではなくて――」


「何それ怖い。皆まで言わないで」


「今思い返すと未来の彼はあまりあなたに似てなかったような」


「やめて。老けたとか言ってたじゃん」


「今日会った彼はどことなく大人びていたような」


「あー僕もね、最近なんか老けてきたかなーって。ちょっと大人っぽくなってきたかなーって」


「心配しないでください。浮気なんてしませんよ」


「だよね、しないよね」


「そもそも私とあなたの関係程度なら浮気になりません」


「そっち!? そんな浅い関係だったの僕ら!?」


「土手に座って喋ってるだけじゃないですか」


「お、おう。おうおうおう。恋人同士とかじゃなかったんだ。そっか、違うのか……」


「恋人同士だったらもっと愛に満ちた会話を繰り広げてますよ」


「例えば?」


「今夜の晩御飯を何にするか相談しあったり」


「そもそも同棲してないし」


「給料の三ヶ月分の指輪をプレゼントしたり」


「気が早い。そしてなんか古い。しかも会話じゃない」


「好きだよと耳元で囁いたり」


「あー……」


「好きだよと耳元で囁いたり」


「……なんで二回言ったの?」


「さて、なんででしょうね」


「…………」


「…………」


「す、好きだよ……」


「……ふ、案外ちょろいですね」


「貴様謀ったな!」




 一人が腰を上げると、もう一人も立ち上がります。

 そうしてどちらからともなく手を繋ぎ、今日に背を向けて、去っていきました。

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